宇宙の歩き方

The Astrogators' Guide to the Charted Space.

総目次


 SFロールプレイングゲームの元祖的存在『トラベラー』の、膨大な宇宙設定や考察などを紹介しております。特段の断りがない限り《第三帝国》設定については、全て帝国暦1105年時点のものとして記述しています。
 これらの情報があなたの旅の指針となりますように―― Bon voyage!

【宙域散歩(OTU設定解説連載)】
第1回 268地域星域 概要編詳細編(スピンワード・マーチ宙域)
第2回 トリンズ・ヴェール星域(スピンワード・マーチ宙域)
第3回 モーラ~ルーニオン間(スピンワード・マーチ宙域)
第4回 グリッスン星域(スピンワード・マーチ宙域)
第5回 『Pirates of Drinax』特集1 ドリナックス王国(トロージャン・リーチ宙域)
第6回 『Pirates of Drinax』特集2 アウトリム・ヴォイド(トロージャン・リーチ宙域)
第7回 トビア星域(トロージャン・リーチ宙域)
第8回 ヴィラニ・メイン1 ヴォーダン星域(ヴランド宙域)
第9回 ヴィラニ・メイン2 アナルシ星域(ヴランド宙域)
第10回 ヴィラニ・メイン3 ヴランド(ヴランド宙域)
第11回 ヴィラニ・メイン4 シイグス・プリデン星域付近(ヴランド・リシュン宙域境界)
第12回 ヴィラニ・メイン5 グシェメグ宙域
第13回 パクト星域(ダグダシャアグ宙域)
第14回 シュドゥシャム(コア宙域)
第15回 キャピタル(コア宙域)
第16回 カムシイとレファレンス(コア宙域)
第17回 ソロマニ・リム宙域・概要編
第18回 リム・メイン1 ハーレクイン星域(ソロマニ・リム宙域)
第19回 リム・メイン2 ヴェガ自治区(ソロマニ・リム宙域)
第20回 テラ(ソロマニ・リム宙域)
第21回 ソル星域(ソロマニ・リム宙域)
第22回 リム・メイン3 アルバダウィ星域周辺(ソロマニ・リム宙域)
第23回 リーヴァーズ・ディープ宙域 前編後編ライブラリ
第24回 カレドン星域(リーヴァーズ・ディープ宙域)
(※記された星系データ(UWP)はT5SSによる改訂前のものです)

【宙域散歩(新設定準拠・改訂版)】
第23回 リーヴァーズ・ディープ宙域 前編後編ライブラリ
第25回 コーベ星域(クルーシス・マージン宙域)

【コラム】
水界の量を決めるのは大気か規模か?
『通信機』で見るトラベラーの40年
SuSAG(巨大企業解説)
フローリア人とフローリア連盟(群小種族解説)
ソロマニ・リム戦争概史
仮死技術と二等寝台
「人類」総まとめ
トラベラー協会
スピンワード・マーチ宙域開拓史
宇宙港 ~未知への玄関口~ 

トラベラー(ホビージャパン版) 正誤表

【宙域図・星系データ集】
1105年版ヴランド宙域図
蘇る「ガシェメグ宙域」
2170AD, Man's Battle for the Stars(『インペリウム』時代の星域データ)
新訳最新版スピンワード・マーチ宙域UWPデータ
1/4スケール「スピンワード・セクター」を作る

【星の隣人たち(知的種族設定紹介)】
第1回 スピンワード・マーチ宙域の知的種族
第2回 ダリアン人の歴史
第3回 接触!ダリアン人
第4回 ソード・ワールズの歴史
第5回 接触!ソード・ワールズ人
第6回 接触!ヴァルグル
第7回 グヴァードン宙域の(帝国に関係する)諸勢力
第8回 接触!アスラン

【トラベラー40年史】
第1回 黄金の時代(~1987年)
第2回 反乱と苦難の時代(1987年~1993年)
第3回 新時代、そして暗黒時代へ…(1993~1997年)
第4回 夜明けの時代(1998年~2007年)
第5回 古典復興の時代(2008年~2015年)
第6回 三者並立の時代(2016年~)
追補A GURPS Traveller 17年の歴史を振り返る
追補B 2018年のトラベラー界隈まとめ

【メガトラベラー日本語版発売30周年記念企画】
知っておくべき新・3大「反乱期の注目の舞台」
ダイベイ宙域1119 ライブラリ・データ 私家版UWPデータ(1)(2)
ジュリアン保護領とアンタレス
ガシカン帝政とイレアン人
クーピッド星域とメンダン宙域
スナップショット ~回廊六景~(コリドー宙域解説)

【Cepheus Engine 解説記事】
トラベラー互換システム『Cepheus Engine』とは何か!?
『Cepheus Engine』で始めるロールプレイング・ゲーム入門
 
『Cepheus Engine Vehicle Design System』レビュー
『Cepheus Light』緊急レビュー

【ぶらりTL11の旅(ATU製品紹介)】
第1回 『Outer Veil』
第2回 『Clement Sector』
第3回 『2300AD』
第4回 『星々を我が手に(These Stars Are Ours!)』
第5回 『Hostile』

『異星人の街カストロバンクラ(Castrobancla, The City of Aliens)』
『Mindjammer: Dominion』
『ドラコニム星域(The Draconem Sub-Sector)』

【『2300AD』関連記事】
太陽系周辺宙域図(を『トラベラー』形式で)
Japan 2300 - 西暦2300年の日本
偶然の遭遇:モニク・ルーセル(と惑星ジョイの設定)

【自作ミニゲーム】
第五次辺境戦争風ミニゲーム「Grenzkrieg: Spinward」
ソロマニ・リム戦争風ミニゲーム「ソロマニ・リム戦役」
恒星間戦争風ミニゲーム「いんぺりうむしょうぎ」
『Traveller: Accelerated Edition』 (Alpha Version)

(※文章には私の意訳・誤訳・誤解・曲解が過分に含まれ、推測による記述や、非公式設定をあえて取り込んだ部分もあります。また、記載した情報は予告なく修正される場合があります)

宙域散歩(23) リーヴァーズ・ディープ宙域(新設定)

 これまで紹介してきたのは、帝国(第三帝国)という安定した巨大国家の領内、逆に第268区星域やアウトリム・ヴォイドといった独立星系群でした。今回紹介するリーヴァーズ・ディープ宙域はその中間、俗に「小帝国(Pocket Empire)」と呼ばれる中小国家が林立し、その周囲を帝国、ソロマニ連合、アスランといった「列強」が取り囲む、というこれまた違った趣きのある宙域です。
 この宙域はまず1981年にMarischal Adventures社から「スコティアン・ハントレス号」シリーズのシナリオが発売され、続いて1982年からFASA社の『Far Traveller』誌で関連記事の掲載が始まり、本家GDWからもハントレス号シリーズのシナリオ『侵略の夜(Night of Conquest)』が出ました。Gamelords社からは1983年から84年にかけて設定やシナリオが数々出版され、その後はSword of the Knight Publications社の『Traveller Chronicle』誌で設定の連載が行われたり、1999年にCargonaut Press社から幻のサプリメント・シナリオなどをまとめた『Lost Supplements Collection』が出るなど、息の長い(というかKeith兄弟の情熱とも執念とも言える)サポートが続いていました。他にも『Travellers' Digest』誌のグランドツアー第16話の舞台となったり、JTAS誌やGURPSやT20でも異星種族設定が紹介され、そして2023年に『Deep and the Dark』で緩衝地帯全域の設定が起こされるなど、和訳資料は少ないですがその設定量はかなりのものになっています。
 今回からは、そんなリーヴァーズ・ディープ宙域のディープな魅力を少しでもお伝えできたら、と思います。

 以下の文章は「極力公式資料に基づく最新の1105年設定」を解説したものです。「非公式設定をも取り込んだ古い1115年設定」はこちらです。なお、この項に関しては新設定で省略された部分も多いため、特にレフリーは旧設定も参考にしてください。


 大裂溝に面したリーヴァーズ・ディープ宙域は帝国の最辺境の一つであり、アスランやソロマニ連合との緩衝地帯でもあります。これら列強国の狭間には様々な独立中小国家や中立星系が存在し、様々な勢力の思惑がうごめく、魅力と危険に溢れた宙域です。
 宙域の名前は、暗黒時代に様々な《略奪者》たち(Reavers)が各地を荒らし回っていた故事に由来します。その《略奪者》たちは遠い過去となりましたが、現在でもこの宙域に多数ある独立世界が海賊や犯罪者の隠れ家であることは否めません。


【宙域史】
 リーヴァーズ・ディープ宙域の古代史はほとんど判明していませんが、少なくとも他の宙域と同じく、30万年前には太古種族が活動していたと考えられています。その痕跡は各地の遺跡や遺物、最終戦争の傷跡、テラから持ち込まれた群小人類たち、そして彼ら太古種族の末裔であるドロインの存在に見ることができます。
 太古種族が去り、再びこの宙域が動き始めたのは-2600年頃でした。衰退と腐敗の過程にあった第一帝国の辺境の総督は、自らの覇権を維持拡大するために内密に国境外世界から「蛮族」の傭兵を雇い入れ始めました。現在のダイベイ宙域にあたるランキシダム属州の総督も例外ではなく、将来の謀反を企図してディープ方面へ探検隊を送り込みました。そこでヴィラニ人は、当時TL7に達していた知的種族サイエと接触したのです。
 目的に適ったサイエ文明に対しては極秘裏に技術供与が行われ、武器や宇宙船を作る能力を彼らは得ました。しかし総督の野心は露見し、罷免された上で処刑されました。サイエの存在は帝国内では闇へと葬られた一方、サイエ文明に送られた派遣団は帰国することができなくなり、そのまま留まって彼らに技術供与を続けました。
 攻撃的で拡張主義的なサイエは、得た技術を用いて小帝国を一時は築きましたが、やがて拡大し過ぎた彼らは大規模な内戦に突入し、滅亡しました。各地に広がったサイエ文化は跡形もなく消え、サイエの存在は彼らが征服した種族の神話伝承の中に封じられました。
 次にこの宙域に足を踏み入れたのはジャンプドライブを手に入れた「地球人」で、十数星系に入植が行われました。興味深いことにこれは、ヴィラニ帝国の黙認の下に行われています。なぜならこの入植者たちは反政府的な傾向があったため、将来的に「敵の敵が味方」になるのを期待してのことでした。その後、恒星間戦争末期から「人類の支配」(第二帝国)の時代にかけて、この宙域はソロマニ人によって探査され、カレドンなどに入植も行われましたが、多くの世界は無人のままでした。
 やがて第一帝国の負の遺産を抱えた第二帝国も崩壊して暗黒時代が始まると、その影響はディープ宙域にも現れました。通商の衰退によって恒星間政府はより小規模なものとなり、統制の低下による治安の悪化で更に通商が衰退し、それに伴って技術も後退していくと、各星系は生き残りをかけてより弱い星系へ基礎技術と資源の略奪に向かいました。これが《略奪者》の始まりです。
 -1500年代の最盛期にはダーク・ネビュラ、マジャール、ダイベイ、ソロマニ・リムの各宙域にまで襲撃範囲を広げていた《略奪者》たちでしたが、奪うものすら無くなった-1400年を境に衰退に転じ、その後はアスランの拡大や、-1118年の「ヤロスラフの戦い」に代表されるように国家の再建と反撃によって、周辺宙域に数々の伝説を残した彼らは次第に消えていきました。「ブラックジャック」デュケイン("Blackjack" Duquesne)、「淡紫の」ウー・ルー(Orchid Wu Lu)といった著名な《略奪者》たちは、後に多くの(史実より美化された)書籍やホロドラマを生み出しました。
 -1120年からは、一般に「アスラン国境戦争(Aslan Border Wars)」の時代とされています。伸長を続けるアスランと人類が衝突と和解を繰り返す中、アスランは広域探査によって、現在のエァ星域やエァコィ星域などに移住に適した(無人の)星々があることを知り、「アォレリーヤー(新たな花園)」への進出を本格化……させる前に、ロァホール氏族が企業活動を隠れ蓑にして利己的にこの地域への他氏族の入植を妨害しており、結果的に人類にとっての防波堤となっていました。しかし、様々な要因が絡んで彼らが宙域から撤退すると、ディープ宙域でもアスランと人類の勢力争いは激化していきました。
 帝国暦100年頃、トレイリング方面から「第三帝国(Third Imperium)」がこの宙域に進出してきました。帝国は旧領の再統合と更なる拡大という野心的目標を掲げ、積極的な探査と併合を繰り返しました。多くの星系では巨大市場への接続と文化交流の再開は歓迎されましたが、イルサラ帝国のようにそれを良しとしない国家は軍備を増強して抵抗を続けました。また、隣のダーク・ネビュラ宙域の情勢が安定したことで海賊やイホテイ艦隊がディープ宙域に流入し、帝国を巻き込んで衝突が続きました。この混乱は、380年に「フトホァーの和約(Peace of Ftahalr)」が締結されるまで続きました。
 和約による緩衝地帯の設置で確かに両勢力の衝突はなくなり、国境線を越えた海賊行為やイホテイの襲撃も大幅に減少しました。その反面、外部から緩衝地帯への投資や援助が断ち切られ、海賊たちも外に出られない分だけ内側で活発に動いたため、続く300年間の宙域経済は和平によって成長するどころかむしろ停滞しました。それでも700年代になると、宙域内の小国同士の貿易は徐々に増え、変化の兆しを見せ始めました。カレドン公王国は800年代に積極的な商的交流の促進によって「探検と交易の時代」の幕を上げ、帝国も小国との外交関係を強化し、有望な星系の属領化を進めました。ソロマニ人の優越を主張する「ソロマニ主義」のソロマニ自治区もこの流れに乗り、宙域に文化使節団を派遣してソロマニ主義の「伝道」を図りました。しかしほとんどの人々は地球への郷愁も感傷もとうに失せていたので、ファールナー星域の一部以外では特に関心を持たれませんでした。
 やがてソロマニ自治区は「ソロマニ連合」として一方的に独立を宣言し、帝国との対立を深めていきました。990年に両者は「ソロマニ・リム戦争(Solomani Rim War)」に突入しましたが、リーヴァーズ・ディープ宙域では大規模な交戦は起こりませんでした(もちろん後方撹乱や陽動作戦など戦局全体を睨んだ戦いはありました)。
 戦後100年を経て、現在のリーヴァーズ・ディープ宙域は落ち着きを取り戻しています。海賊やイホテイの襲撃は減少傾向にあり、何百年も宙域を事実上無視してきた帝国の巨大企業は(和約の抜け穴を探りながら)未開拓市場に徐々に進出しています。緩衝地帯内の小国や独立星系は自治を謳歌し、比較的小規模な宇宙船が国境間貿易の主力を担っています。
 自由と危険が隣り合わせのこの辺境宙域には、大きな可能性が秘められています。

【宙域の経済状況】
 緩衝地帯特有の性質とリム戦争による混乱で、この宙域は経済的にも技術的にも発展途上です。ほとんどの星系は大企業や大国からの関心や投資がほとんどなく、数百年に渡って完全に無視されてきた星もあるため、探査や開発の好機となっています。
 緩衝地帯はまとまりがなく、比較的荒れた地域ですが、いくつかの重要航路が通っています。「カレドン・ラン(Caledon Run)」はダイベイの帝国領とカレドン公王国を結んでいて、帝国系巨大企業の大型貨物船や定期便客船の独壇場です。「ディープ横断航路(Trans-Deep Route)」は、帝国やソロマニ連合からウーラカッシュ星域を経てカーリルやマールハイム方面へ向かう交易路です(必然的にそこから先のアスラン領方面航路にも接続します)。ここでは帝国、ソロマニ、アスラン、カーリルの大企業が様々な大きさの貨物船で競い合っています。
 しかし、帝国の巨大企業は緩衝地帯に直接乗り込んでクーシューまでの航路を拓こうとはしていません(※和約後はあったらしいですが、ソロマニの伸長で途絶えてしまいました)。数十年規模で事業計画を立てる帝国企業にとって、アスラン氏族は予測困難な相手ですし、緩衝地帯は規制や秩序が緩すぎることもあって、航路を設定するまでには至りません。その代わりに、野心的な独立商人がその空白を埋めています。彼らは不安定な状況に身を投じることを厭わず、(非効率にも国境沿いの港でわざわざ降ろされた)帝国やアスランの産品を契約貨物や投機商品として行き来させています。
(※もう1本、ソロマニ領とアスラン領を結ぶ「クーシュー航路(Kuzu Route)」があり、暗黒時代から交流のあるウー人系企業とアスラン商人が行き来しているのですが割愛します)



【知的種族(人類)】
アヤンシュイ人 Ayansh'i
母星:ゴースト(3115)
 アヤンシュイ人は秘密主義の群小人類です。見た目は細身ですが、瞳の大部分が虹彩に覆われているので、母星の薄暗い環境でも優れた視力を発揮します。彼らは長寿で知られるヴィラニ人よりも更に長寿です。彼らの多くは遊牧民で、あまり技術には興味を示しません。彼らの生殖については双子が当たり前なことと、おそらく太古種族による遺伝子操作(と母星での自然淘汰)によって他の人類との交配ができなくなっていること以外は、ほとんどわかっていません。なお、アヤンシュイ人はこれらを「祖先が決めたこと」として、外部からの研究を拒んでいます。
 アヤンシュイ文化は、「生の世界アヤタ(Ayata)」と「精神や霊の世界インチャタ(In'chata)」の二元論を中心に構成されています。それぞれに専門的な階層があり、儀式の中心となる神託者イノシャン(Inoshan)はアヤタに、その弟子であり護衛のパツァイター(Patza'itah)はインチャタに紐付いています。両者は皆双子で、片方がイノシャン、もう片方がパツァイターとなります。世の中のあらゆる現象はアヤタやインチャタの顕現とされますが、アヤタの解釈は個人の自由である一方、インチャタを解釈できるのは神託者や弟子だけです。
 アヤンシュイ人は帝国の美術界でよく知られています。ゴーストでは彫刻刀から建築物まで装飾のないものはなく、惑星上のあらゆる物が芸術作品です。これらは現在ダイベイ宙域各地に輸出され、収集されていて、やがて帝国全土で高い人気を博す可能性を秘めています。孤立主義・秘密主義のアヤンシュイ人が故郷を離れることはめったにありませんが、顧客に説得されて創作に出向いたことは過去何度かあります。ワリニルの公爵邸庭園、ソル大公所有の「季々の笏(The Scepter of Seasons)」、そしてキャピタル皇宮の「クシウム・マタリ(K'sium Matari)」は、そんな職人たちによる傑作です。
(※設定が整理された結果、パツァイターとイノシャンが旧設定と逆になっています)

ハッピルーヴァ人 Happirhva
母星:レジャップール(1218)
 カレドン属領に住む群小人類であるハップラーニ人は、資源の乏しく乾燥した母星の環境に適応しています。額の中央から頭蓋骨の上部にかけて特徴的な隆起が走り、その両側側には毛がまばらに生えています。暗褐色の皮膚は革のように硬く、鱗状に分かれています。瞼は熱砂などから目を保護し、鼻と耳も同様に適応しています。
 過酷な環境で生き延びることが何よりも優先されたため、彼らは技術の発展を阻まれました。約250年前に外世界人がやってきた頃、彼らは草原や砂漠に住む遊牧民と、塩湖のほとりの肥沃な地域に住む農耕民の2つの文化圏に分かれていました。農耕民はTL3に達していましたが、遊牧民はTL1~2程度の質素な生活を送っていました。遊牧民は放牧動物の群れを追って季節ごとに大地を移動するため、農耕民と遊牧民は定期的に接触します。集団同士が衝突することも時折ありますが、一般的に両者はうまく共存しており、この移動は交易・祝祭・婚姻、そして思想や文化や友誼の交流の場となっています。
 ハップラーニ人はいくつかの口承言語と筆記言語を生み出し、特に農耕民の言葉は遊牧民や外世界人との共通言語ともなっています。一方、遊牧民は部族ごとに独自の方言を持ち、互いに理解することはできません。そして多くの農耕民(特に兵士や農園労働者)はカレドン訛りのアングリックを話せます。
 実は「ハップラーニ」とは本来、現地語で「大地の民(農耕民)」だけを指す言葉なのですが、外世界に誤って広まってしまったため現在は種族名として定着しています。彼らは種族全体を「ハッピルーヴァ(Happirhva)」と称し、「草原の民(遊牧民)」は「ハッピジョム(Happijhom)」と呼んでいます。
 彼らの信仰形態は多種多様ですが、行動規範は共通しています。宗教は競争よりも協力を重んじ、名誉、勇気、そして家族や仲間や社会への献身を美徳とする倫理観があります。遊牧民は特に厳格で、殺害は公正な戦いか、死刑囚が自らの潔白を示す試練の際のみです。そして遊牧民の間では、古の「天の神々」への畏怖と不信が広く信じられています。
 レジャップールに外世界企業SDTCがやってきてから、農耕民は飲料に加工される作物ジャイへを生産してSDTCが独占して輸出するという関係が築かれました。1024年以降、それは企業経営の大規模農園(プランテーション)に姿を変え、より効率的な大量生産が追い求められました。当初それはより高い賃金、より良い教育、そしてより進んだ技術への接触機会の提供、という形で農耕民の労働者にも利点がありましたが、やがて農園が拡大していくにつれて逆に効率化が加速して労働者が余り、富はレジャップールに還流せず流出し、賃金も低下していきました。会社はハップラーニ人を見下し、彼らの自由に対する統制を強めていきました。
 ハップラーニ社会は今、大きな転換期にあります。企業統治が3世代近く続いたことで古い生活様式は姿を消し、外世界の慣習が持ち込まれましたが、それは混乱をもたらしました。農耕民は相次ぐ社会問題に不満を募らせ、遊牧民は農園拡大のために放牧地を徐々に奪われ、追い出されました。農園が搾取的になるにつれ、会社は治安維持のためにますます暴力に頼るようになりました。SDTCは外世界の傭兵部隊と契約し、ハップラーニ人からなる「ルヴァッカ(現地語で「支援」)部隊」も結成しました。
 1059年に緊張はついに遊牧民連合による武装蜂起に至りましたが、いわゆる「シンブラの戦い(Battle of Simbula)」で完膚無きまでに鎮圧されました。それ以降SDTCの拡大は野放図に続けられ、1098年には遊牧民の伝統的領土である草原地帯に最新の入植地ナハワイジョム(Nahawaijohm)の建設が始まりました。この「侵略」行為は遊牧民の怒りを買い、1103年に入植地が完成するまでに4度も襲撃を受けて焼き払われました。傭兵とルヴァッカの大部隊に守られることでようやく工事は完了しましたが、今でもこの入植地は遊牧民らの間で強い反感の的となっています。

イルサラ人 Iltharan
母星:ドレシルサー(1826)

「諸君がイルサラ文化を知っているのなら、『イルサラ人』という単語が多くの方言で『海賊』と同義語になっていった事に驚きはしないであろう。そしてそれが当のイルサラ人にとっては誇りの表現である事にも驚かないであろう」
――ダフィド・ジュガシヴィリ教授
シレア大学の比較知的種族学講義より


 太古種族によって寒冷かつ低重力の惑星ドレシルサーに移植されたイルサラ人は、新たな故郷の過酷な環境に適応しました。男性の平均身長は2メートル弱、体重は95キログラムで、女性は男性よりもわずかに小さいです。肌の色は明るい銅色から乳白色まで様々で、目は青や灰色や榛(ヘーゼル)色です。成人したイルサラ人男性は常に髭を生やしています。彼らは比較的不妊ですが、その代わり非常に長生きです。適切な医療を受けられれば、150歳まで生きることも可能です。
 暗黒時代に外世界から進んだ技術を手に入れたドレシルサー人の一民族「高イルサラ族(High Iltharans)」は、他大陸のアカカード族(Akakhad)・トリング族(Tring)を征服し、近隣星系をも次々と併合して恒星間国家「イルサラ帝国」を築き上げました。この国は非常に攻撃的で、やがてカレドン公王国や、最終的には第三帝国とも衝突しました。そのイルサラ帝国は268年の帝国軍による(大虐殺に等しい)ドレシルサー爆撃によって滅亡し、生存者の子孫は母星ドレシルサーや近隣の旧領土の星系に細々と住んでいます。
 彼らの間では、旧帝国時代の公用語であった共通イルサラ語が今でも広く話されていますし、アカカード語やトリング語も一部で使われています。加えて、帝国滅亡後に多くのイルサラ人はアングリックを習得しました。
 非常に長寿な彼らは高度に構造化された社会階層を形成し、年功序列の傾向があります。イルサラ社会は非常に保守的で変化が遅く、極度に軍国主義的で、そして意外かもしれませんが男女同権です。個人としては、攻撃的で、国家や権威に従順で、弱者に同情や慈悲の心を持たないことが社会全体で重んじられています。イルサラ人はあらゆる人類の中で自分たちが最も崇高であると考え、外世界人は蔑まれます。
 イルサラ社会の中核を成す組織は、職業ギルドです。子供たちは義務教育を受けて18歳で成人すると、いずれかのギルド(普通は両親のどちらか、もしくは双方が所属するギルド)に徒弟として入門します。ギルドは構成員に高度な職業訓練と雇用を提供し、時には氏族や部族のような役割を担います。そして軍隊こそが最も権威ある最大のギルドなのです。よそから見ればこの仕組みは非効率的で、ギルド間の争いも生みがちですが、イルサラ人の気質には合っているようです。


【知的種族(非人類)】
ブルーレ Bruhre
母星:コルヴェ(ダイベイ宙域 1729)
 カレドン星域のローレン(2311)には、ダイベイ宙域でも珍しい非人類群小種族ブルーレが農業入植地を築いています。彼らは雑食/腐肉食生物から進化した、巨大な6本足の種族です。硫黄濃度の高い大気を好み、人類には有毒な動植物を摂取することができます。球根状の胴体から6本の脚が伸び、体高は約1.8メートル、体重は1400キログラム。大きく離れた2つの黒い目と、大きく開いた口を持ちます。
 ブルーレは複雑で不可解な種族であり、儀式と儀礼に縛られています。彼らの生活のほぼ全ての場面で複雑な作法があり、彼らは掟と慣習から離れては何もできず、何も考えられないと言われています(よって彼らが社会の外に旅立つことは稀です)。また彼らは驚くほど非寛容的で、部外者も彼らのやり方に完全に従うことを当然視しています。
(※そんなブルーレがローレンに移住している理由は不明です)

ジアージェ J'aadje
母星:ガージパジェ(1124)
 ジアージェは雑食性恒温動物から進化した、平均体重60キログラム程度の細身で小柄な群小種族です。筋力は弱いですが俊敏で流麗な動きをします。彼らは黄金色の肌と大きな灰色の目を持ちます。頭部は幅広く平らで、鈍角三角形の鼻先が口の上に突き出ています(が、これは鼻ではなく、呼吸は顎のすぐ下の開口部から行います)。四肢は人類とは異なる柔軟な関節を持ち、手には対向する2本の親指と、ほぼ円形の掌から放射状に伸びる5本の非常に柔らかい指があります。彼らは雌雄両性で、平均寿命は70年程度です。
 ジアージェは平和的な種族で、外世界人に対して礼儀正しく友好に接しますが、彼らの振る舞いは形式的で儀礼的です。これまで彼らは星間文明からほとんど無視されてきて、TL4に留まっています。彼らの文明は技術進歩を重視せず、芸術、詩吟、舞踏を重んじます。優美で繊細なこれら美術品は高い職人技によって創られ、外世界で高値で取引される可能性を秘めています。
 ジアージェはそれぞれ寡頭政治家などが治める小規模の都市国家群に住み、その社会は階層化されています。最上層の者は富を誇示することでその地位を強化します。
 彼らは多彩な言語を持ちますが、その全てが一つのいわゆるジアージェ語の方言です。

ラングルジゲー Languljigee
母星:ラジャンジガル(1721)
 ラジャンジガルの塩素大気でも生きられる三足歩行の知的種族です。現在はダカアル社の支配下に置かれ、様々な希少金属や放射性物質を採掘する事実上の奴隷労働力として搾取されています。

ルーシャナ Lhshana
母星:ルーシャミ(2111)
 雑食/採集生物から進化したルーシャナは、小柄(身長1.2メートル)で三辺対象形の姿をしている群小種族です。非攻撃的で思慮深い種族であるルーシャナは、2000年以上に渡って安定した文明を築き、まずサイエによって、その後暗黒時代にルーシャミを訪れた人類の《略奪者》によって2度の技術革新が起きたことがわかっています。598年にカレドン商人と接触した時点ではTL9に手が届いていました。しかし彼らは宇宙に興味はなく、いかなる宇宙開発技術も発展させてはいませんでした。

サイエ Saie
母星:不明
 約3700年前に今のカレドン星域あたりで栄え、滅亡した非人類種族です。彼らの存在を示す痕跡はわずかで、いくつかの遺物(一番有名なのはグレンシエル(1912)の「ジュラの墜落痕(Crash Jura)」で発見された宇宙船)と、古のヴィラニ人による記録(5~6星系からなる小帝国の存在)がありますが、大部分は当時サイエに従属していたと思われる群小種族ヰン=ツァイやルーシャナの神話や伝承からのものです。
 これらの情報から、サイエは直立二足歩行の肉食/捕食生物であったと思われます。母星の位置は不明で、外見すら伝わっていません。そして彼らは、恒星間戦争前の動乱期に謀反を企んで協力者を探していたヴィラニ人総督からジャンプ技術を得たようです。
 サイエは非常に闘争心が強く、内輪揉めを起こしやすかったと思われます。また統治星系には、原住民を支配するのに最低限必要な数百名程度の行政官や兵士しか置いていなかったようです。これらの説は、破滅的な内戦によって彼らの国家と文明が完全に消え去った理由として提唱されています。
 考古学者たちは現在、この謎の種族をより深く知ろうとしていますが、その解明は遅々として進んでいません。

トリェトライ Tlyetrai
母星:ホア(0310)
 トリェトライは2足歩行の、身長2メートル、体重40キログラムほどの、細く葦のような身体と華奢な四肢を持つ群小種族です。3本の指は柔軟で、首は見当たりません。円錐形の頭部が突き出ていて、その先端はわずかに丸みを帯びています。彼らには体毛がなく、薄紫色でゴムのような皮膚をしています。2つの複眼は大きくて黒く、口もありますが、鼻や耳はありません。卵生のトリェトライには3つの性(女性・男性・育性)があり、必要に応じてどの性別にも変化することができます。
 トリェトライは温厚で友好的、かつ非常に協力を重んじ、全ての決定は合意に基づきます。その分変化が遅く、極めて安定した社会が生まれました。トリェトライは自力でTL5に到達し、数千年に渡ってそれを維持しました。-1000年頃のアスラン商人との接触は、母星以外の世界の概念を持たなかった彼らにとって大きな衝撃でした。この「啓示」を理解するのに数百年を要しましたが、これは新たな、でも緩やかな技術進歩を促しました。-100年頃にトリェトライはTL6に到達し、-75年には実験的な亜光速宇宙船を隣接する2星系に送り、植民地を築きました。
(※そしてそれから1000年以上が経過しましたが、特に変化はないようです)

ヴィルシ Virushi
母星:ヴィルシャシュ(2724)
 「戦車の血を引くケンタウロス」「知能あるブルドーザー」と形容される、帝国内でも最大級の群小種族であるヴィルシは、体長は3メートル、肩までの高さも1.8メートルあり、体重は1トンに達します。彼らは重なり合った、言わば皮の装甲板に覆われていて、樹木のように太い4本脚で歩くどころか驚くべき速さで走ることもでき、2対の腕を使って非常に繊細な作業を行うことができます。下肢の腕は筋肉が発達し、非常に強力です。上肢は比較的細いように見えますが、驚くほど器用です。
 彼らは非常に強いですが、それは貧弱な感覚器官と裏腹です。巨大な眉間に埋もれた彼らの目は、明るい日光の下では機能しますが、薄暗い場所ですら全く見えません。耳は母星の濃い大気中で音を聞き取るために進化したので、標準大気では彼らの可聴域下限に近くなります。
 その巨大な体躯と力ゆえに人類には怖がられることもあるヴィルシですが、実に温厚な種族です。母星には天敵らしい天敵がおらず、牧歌的な文化を築いたため、彼らの歴史には組織化された大規模な国家も戦争もありませんでした。彼らは他者からの命令を受け入れない一方で、他者や共同体に献身しようとする並外れた熱意があります。これは故郷を離れて宇宙に出た者にも共通していて、帝国各地で見られるヴィルシは他者に奉仕する職業に就いていることが多く、そうでなければ極端な個人主義でも勤まる仕事です。持ち前の器用さを活かして優れた外科医になる者も珍しくなく、中には帝国皇帝の侍医になったヴィルシもいます。一方で、その巨体を活かせば恐るべき戦士にもなれる素質がありながら、彼らは命令に従わないので軍隊には入りません。
 ヴィルシは巨体ゆえに広い居住空間を必要とします。宇宙船や宿泊施設では、部屋に必要な排水素トン数は人類の倍になります。快適に過ごすには8トン、軍艦など狭い部屋でも4トンが必要です。

ヰン=ツァイ Yn-tsai
母星:不明(少なくともツァネシ(1711)ではない)
 ヰン=ツァイは、カレドン公王国政府に保護されている二足歩行の知的種族です。ヰン=ツァイの身長は約1.9メートルで、白や灰色や金色の毛皮に覆われています。頭髪は長く、精巧に編み込まれており、彼らの社会での地位と身分を示しています。両手には7本の長く器用な指があり、現地の低い気圧に適応した樽のように大きな胸と、幅広く平らな顔をしています。
 彼らはツァネシ星系のみで見られますが、どうやらこの星の原住民ではないようです。今のところ学界では、彼らは未知の母星からサイエによってツァネシに移住させられた、と考えられています。サイエではなく太古種族だとする説もありますが、数々の物証によって否定されています。
 ヰン=ツァイは563年にカレドンの探検家が初接触した時点で、TL3の封建社会を築いていました。しかし、人類に彼らは不可思議な存在に見えました。明らかに彼らはツァネシの生態系に当てはまっておらず、この星で進化したとは思えなかったからです。また、祖先は狩猟/肉食動物のはずなのに、奇妙なほどに平和的な文化を持っていることも謎でした。
 彼らが持つ「空からの訪問者」への恐怖心を和らげるには何十年もかかりました。研究者の間では、これは彼らの支配者であったサイエを滅ぼした内戦の記憶の名残であろう、と意見は一致しています。そしてヰン=ツァイの伝承は、サイエに関する貴重な情報を数多く提供してきました。
 ヰン=ツァイは今も孤立主義的で、やや排外主義的であり、人口も約200万と少ないです。彼らの技術は数百年に渡って進歩してきましたが、戦争や宇宙旅行を避けたいという傾向がはっきりと見えます(彼らが故郷の外へ旅することは極めて稀です)。学者たちは、彼らの起源や文化の謎や秘密を明らかにしようと研究を続けています。

(※旧設定にいるダーフィガッサクやヰスライは、T5SSで母星が人類星系に変更されたので新設定では存在しません。また、1105年時点で未接触の一部種族は別項に移しました)
(この宙域の国家・企業等についてはこちらを、ライブラリ・データについてはこちらを参照してください)

リーヴァーズ・ディープ宙域 ライブラリ・データ(2025年改訂)

 以下の文章は「極力公式資料に基づく最新の1105年設定」を解説したものです。「非公式設定をも取り込んだ古い1115年設定」はこちらです。


【ライブラリ・データ】
アイヒー Aikhiy 1634 C546616-7
 この星系には-80年代にロァホール氏族が最初に入植しましたが、この時の入植地はうまくいかず、今ではその名残りが地名と遺構にあるのみです。
 フトホァーの和約後、ここにはヴェニス(1534)・グラリン(1735)両政府の合弁企業であるアイヒー開発公社(Aikhiy Development Trust)が集めた人類が定住しました。同社の目的は、両星系に安価で良質な農産物を供給することです。
(※これはT5SSでアスランが居住していることになる前に作られた設定です。帳尻を合わせるなら、今いるアスランは公社が集めたか、イホテイがこっそり入植して既成事実化したのでしょう)

アウトポスト Outpost 1926 B310442-D N
 この「前哨基地」は帝国国境の外にありますが、帝国海軍の立派な軍事拠点です。872年に設立されたアウトポストは、星系の最も内側の軌道にあるガス惑星の第3衛星にあります。軍人のほかに、少数の民間人(ほとんどが非帝国市民)が軍人を支える職のためにこの惑星に定住しています。
 この星自体には産業も資源もほとんどありませんが、商業船舶の主要な中継港となっています。アウトポストの大きな宇宙港には優れた設備があり、貿易や行動に対する制限はほとんどなく、さまざまな情報、商品、機器を入手できる結節点です。
 アウトポストが建設された理由はいくつかあります。まず、かつて海賊や紛争の脅威にさらされていたこの星域に安全をもたらすため、そして、帝国と友好国ダンシニー連合との間の連絡を維持するためです。
 この前哨基地は、フトホァーの和約に抵触しないよう慎重に建設されました。まず、870年に約500名の入植者によってこの星は開拓されましたが、そのほとんどが帝国海軍の退役軍人でした。彼らは翌年には帝国属領となる請願手続きを行い、その翌年には海軍基地が設置されたのです。その際、和約の条項にある、属領から土地を借り上げられる「抜け穴」が利用されました。これには一部の有力なアスラン氏族から抗議はありましたが、それ以上のことは起こりませんでした。それでも、基地の閉鎖を求める圧力が内外から(多少は)かかっているのは事実です。
(※緩衝地帯の星系を属領化すること自体は和約違反ではありませんが、軍事拠点化することは違反になります。よって建前上、帝国は「地元の」海軍基地を「借りて」いるのです。ちなみに各属領には帝国大使館が置かれ、属領星系にもキャピタルへの大使館設置を推奨しています)

アスラン語 Aslanic
 アスランの言語「トロール」そのものではなく、人類が発声しやすいように変化したトロールを指す、言わばトロールの方言です。文法にトロールとの違いはありませんが、性別固有の規則がないことが特色です。また、アングリックからの借用語が多く含まれます。アスランにとってアスラン語は「身分の低い」言葉に聞こえますが、その代わり、アスラン語話者の失言や無礼に対してはかなり寛容に接します。
 アスラン語は暗黒時代に生まれ、アスランと接することの多い人類にすぐに広まりました。現在ではダーク・ネビュラ、リーヴァーズ・ディープ、マジャールの3宙域で広く知られています。

アスラン国境戦争 Aslan Border Wars

「アスランが常に介在したわけではなく、実際に国境があったわけでもなく、ましてや、戦争と呼べるものすらほとんどなかった」
――あるソロマニ人歴史家


 -1120年から380年まで人類とアスランの間で続いた戦争、と一般的に誤解されているものです。従来は以下のように捉えられていました。

 主要種族の中で一番遅く宇宙に出たアスランは、すぐに人類の勢力圏と接触し、領土争いをする関係になりました。当時の人類には統一政体はなく、「小帝国」や星系単独政府がそれぞれアスラン氏族の攻勢に耐えなくてはなりませんでした。最盛期のアスランは旧帝国の領域を約40パーセクも侵食していました。
 しかし帝国暦200年にもなると第三帝国が伸長してきて、進んだ技術で秩序立った反撃が可能となりました。それでもアスランは氏族ごとにしか行動ができず、各個に撃破されていきました。
 最終的に、380年に帝国と4大氏族との間で「フトホァーの和約(Peace of Ftahalr)」が結ばれ、両者の間に約30パーセクの中立緩衝地帯を設けることで境界線が確定しました。

 しかしその実態は、約1500年間に渡って5~6宙域で繰り広げられた、そのほとんどが小規模の無数の紛争の集合体に過ぎません。多くの学者は、明確な歴史的出来事と言うよりは、慢性的な政情不安と考えた方が良いと指摘しています。
 国境戦争は人類とアスランの対立として語られがちですが、現実は遥かに複雑でした。確かに多くの戦いはアスラン氏族と人類小国の間で戦われましたが、混沌とした情勢の中でアスランの家来として人類と戦った人類国家もありましたし、交戦した両陣営がアスラン氏族を傭兵としたこともありました。紛争の始まりと終わりこそ大規模な戦闘が繰り広げられましたが、ほとんどの戦闘は一撃離脱の襲撃で終わりました。
 「国境」というのも語弊があります。明確に定義された国境はそもそもなく、数星域の幅を持つ混在した不定形の領域がそこにあっただけです。何世紀にも渡って紛争と和解が繰り返されていくうちに境界線は徐々に広がり、不明瞭になっていったのです。

アリエル教 Arielism
 イスライアト領で広く信仰されている宗教で、イスライアトがアスラン氏族の家来となった時代にマイジャーラ(0320)で創始されました。これは破壊神と聖なる創造主による二元論的宗教で、両者には獅子の頭を持つ翼人の姿をした精霊が仕えています。アリエル教ではアスランはこの精霊の子孫と考えられていて、人類の師であり誘惑者でもある存在として宇宙に遣わされたとされます。
 ただ、時代が経つにつれてアリエル教は原理主義的、技術忌避的傾向を強めていきました。イスライアト領の技術水準が中央値でTL7に留まっているのはこの影響です。

イザナク大提督 Grand Admiral Izanak
 ドレシルサー(1826)の群小種族イルサラ人の歴史の中で、最も重要な役割を担った《略奪王》(Reaver warlord)です。
 -1030年、強力な敵との戦いに敗れたイザナクは逃亡先のドレシルサー(1826)に着陸しました。彼はドレシルサーの3民族の中で当時最も遅れていた(といっても初期工業文明に達していた)イルサラ族を選んで、技術提供と引き換えに船の修理を手伝わせました。
 8年後、修復を済ませて星々の世界へ帰っていったイザナクのその後は、誰も知りません。
(※従来は確かに公式設定でしたが、なぜか最新設定では一切この事について触れられていません。もしや実在が疑われているのでは…?)

イスライ語 Islai
 イスライアト領内で主に使われ、-800年頃に現在の形となった人類言語です。アングリックの派生ではなく、既に消滅した古代テラの言語(しかもおそらく複数の)の流れをくみ、トロールからの多くの借用語が含まれています。

イルサラ帝国 Iltharan Empire
 群小種族イルサラ人は、-1030年に母星ドレシルサー(1826)に逃亡してきた《略奪王》イザナク大提督の船から核融合炉とジャンプドライブの技術を入手し、当時TL4~5程度だった技術水準を飛躍させました。その20年後には彼らは宇宙に飛び出し、そして彼ら自身の拡張主義志向も手伝って、ドレシルサー周辺の星系を次々と併合していきました。
 しかし、誕生したばかりのカレドン公王国と遭遇・交戦したことで拡大の勢いは止まり、続く300年間は宙域に進出してきたアスランと第三帝国の狭間で没落していきました。それでも彼らは好戦姿勢を捨てず、暗黒時代の終わりとともに増加していった星間物流への襲撃をやめなかったので、イルサラ帝国と第三帝国は直接対峙することとなりました。
 最終的に、250年には当時イルサラ帝国領だったダンシニー(1624)、ラナルド(1526)、フルトン(1524)の反乱を公王国政府が支援し(※この3星系は元々カレドンからの植民星でした)、帝国軍の支援を受けたカレドン軍がイルサラ軍を次々と破って星々を解放していきました。そして268年、帝国海軍によるドレシルサー爆撃によってイルサラ帝国は終焉を迎えました。

イルドリサール Ildrissar 2326 C995836-7 A
 ドレシルサー星域にあるこの星系は、約200年前に本格的な入植が始まってからずっとカーリル合州国に属しています(※ただしそれ以前にも断続的に採掘企業の進出はあったようです)。この惑星はその高重力と地表あちこちで蠢く活発な火山活動によって重金属や放射性物質が豊富であり、それが人々を惹きつけたのです。
 これまでイルドリサールは合州国の一員として国家の発展に貢献し、そして国家から数々の支援と恩恵も得てきました。しかし1105年以降、合州国のダルドリーム大法官が憲法に反して強大な権限を得た結果、増税、鉱石の価格統制や採掘制限、主要産業の国有化などの急激な政策転換によってイルドリサールは大打撃を受けました。
 イルドリサールの住民は自星の利益に完全に反するこれらの政策に異を唱え、憲政への回帰を求める保守派から合州国離脱を訴える過激派まで、様々な政治派閥が誕生しています。特に(影響力と資金力で優る)過激派は武器を蓄えて外世界から傭兵を呼び込むなど、不穏な動きを見せています。

ヴィルシャシュ Virshash 2724 DA86954-6 S
 緩衝地帯に接する高人口の帝国領であるヴィルシャシュは、国内で最も有名な群小種族に挙げられるヴィルシの故郷です。彼らはその巨大さと温厚さと、そして社会への反発心で知られていますが、本質的には無政府主義であってもその協調性の高さから帝国という「制約」の中でも立派にやっていけていますし、彼らの文化と精神性の影響は多くの近隣星系で感じられます。
 連星の主星シントルは強烈な放射線を発し、惑星の高重力(1.75G)と濃厚大気も相まって環境は著しく不安定ですが、ヴィルシを含めて巨大で屈強な生命体による豊かな生態系を生み出しました。これら大型動物は基本的に四対の手足を持っています。
 現地の技術レベルは6に過ぎませんが、帝国人たちはヴィルシとの貿易を促進するためにそれよりも高度な生活・産業基盤の開発を進めました。赤道地帯の大きな島に宇宙港を建設し、輸送網の構築や工場の自動化が行われました。加えて帝国偵察局は、国境外での長距離探査活動を支援するために、ここに基地を構えています。それでも地表の大部分は、かつて地球人探検隊が最初に見た風景とあまり変わっていません。
 宇宙港の内側は当然帝国の法律が及びますが、XT線(extrality line)を一歩越えるとヴィルシ気質の「無秩序」が広がります。現地での帝国の代表者はヴィルシのヒルヴァティム伯爵ですが、彼の地位は儀礼的なものに過ぎず、日常業務は多数の外世界からの職員に頼っています。ヴィルシには法執行や法的紛争を解決する概念がほとんどないため、帝国はヴィルシャシュでの外世界人の法的諸問題を解決するための組織を、司法省の下で設置しています。帝国はヴィルシを大事な国民と見ており、彼らの感受性を害さないようにあらゆる努力を払っています。
 ヴィルシャシュでの活動は外世界人にとって非常に苦労が多いので、円滑に物事を進ませるためにも、帝国政府はここで商売を行おうとする者に対して、ヴィルシの仲介者を雇うことを強く推奨しています。

ヴェニス Venice 1534 C55A995-8
 この海洋世界で、70億の住民は海上や海山頂上に都市を建設して住んでいます。TL8ではありますが電子機器の製造や海産物の輸出で経済を成り立たせており、この星は貿易業者に人気の寄港地となっています(ただし自前の貿易船団は持っていません)。

エァコィ・コーポレーション Eakoi Corporation
 かつて存在したアスラン系商社です。創業は-835年で、エァコィ星域やエァ星域にあるいくつかの低TL世界との貿易を表向きの(どう考えても儲からない)事業としていましたが、その実態は、出資者であるロァホール氏族のために「将来の領地」を先取りし、他の氏族が定住するのを妨害するための先兵でした。同社による封鎖は完全にとはいきませんでしたが、抑制には成功していました。
 しかしこの利己的な行いによってロァホール氏族は、文化粛清の際に「アスランらしからぬ振る舞い」と非難を受け、小氏族連合からは追撃され、ソロモン(1538)を中心とする人類も貿易戦争を断続的に仕掛けてきました。ロァホール氏族は嵩む戦費によって破綻し、128年にこの地域から撤退しました。
 エァコィ社の崩壊はイホテイ船団のディープ宙域への流入を引き起こし、その結果アスランと人類の対立を増幅させて「動乱(The Turmoils)」と呼ばれる事態に至りました。

王朝危機 Dynastic Crisis of 1024
 カレドン公王国のコリン公王(Prince Colin)が後継者なく死去したことに伴い、1024年に発生した内戦のことです。第二次公王国内戦とも呼ばれます。
 王座を巡ってエドワード・キャンベル卿(Edward, Lord Campbell)とクラヴァース大男爵デイビッド・マクスウェル提督(Admiral David, Earl Maxwell of Claverse)の両派に分かれて戦いが始まり、財界の支援を受けたキャンベル卿が最終的にはダンバートンの戦い(Battle of Dunbarton)で勝利して、1025年004日にエドワード公王として即位しました。一方、敗れたマクスウェル伯は公王国領外のジェルメーヌ(2019)に逃れました。

オークニー(2919)とメイデン(2920) Dienbach Grÿpen
 ナイトリム星域にある両星系は、住民が未だに帝国への併合を拒み続けているので封鎖されていて、隣接するカギシュ(3019)の偵察局基地から監視を受けています。
(※現設定ではただの排外的な人類星系です。ちなみにオークニーのBクラス宇宙港は中継港として、ガス惑星や星系最外周の軌道上にあるのではないでしょうか)

ガージパジェ Gaajpadje 1124 E667874-4
 エァ星団にある独立星系ガージパジェは、低技術ですが自然が豊かで快適な気候の星です。この星には遠く離れた二大大陸や群島があり、港町リジュジャ(Rijudjya)を中心とした西大陸の都市国家群には先住知的種族のジアージェが、東大陸には軍国主義の人類であるクトリング(K'Tring)が住んでいます。両者の緊張は近年高まっていますが、この惑星の大洋が巨大な障壁となっています。
 アスランの勢力圏に近いこともあって、辺境のガージパジェにはこれまで外世界の人類はほとんど訪れていませんでしたが(※ジアージェの伝承の中には第一帝国のヴィラニ人との接触を示唆するものがあります)、カレドン・ベンチャーズ社はジアージェとの貿易交渉に関心があると報じられています。
(※カレドン・ベンチャーズ社による市場調査は1050年頃から行われていますが、実はアスラン企業のハテューウィが1030年頃からジアージェと交易を行っています)

カアニイル Kaaniir 2223 C688611-6 S
 豊かな農業惑星である帝国属領のカアニイルは、テラやヴランドより少し涼しい程度の快適な星です。地表での居住地は赤道周辺の温帯に集中しており、そこには理想的な農地が広がっています。
 この星系は帝国の巨大企業マキドカルンに租借されていて、同社の高級食品部門はこのカアニイルの大規模農園で栽培された様々な作物、極上のワイン、カアニイルコーヒーをはじめ、様々な果物、野菜、食肉などを帝国各地へ独占して輸出しています。
 この星の統治自体は租借前からの政府が引き継いではいますが、法律は企業の厳格な規則が取って代わりました。例えば、現地では殺人は罪ではないですが、殺害された労働者の残る生涯分の生産ノルマを犯人が肩代わりすることで償われます(ただし、ノルマに等しい現金の支払いや、身内を代わりに働かせるなどで免れることは可能です)。また、この星系での生活サービスは全て企業が提供し、その費用が給与から差し引かれます。賃金が高いのは事実ですし、規則も無闇に厳しいわけではないのですが、移民も含めた多くの労働者は自身の境遇に不満を抱いています。とはいえ、この星から出ていけるほどの貯蓄ができる者はほとんどいないので、寄港中の貨物船への密航や乗っ取り行為を試みる個人や集団は定期的に現れます。
 マキドカルンはカアニイルに直接乗り入れる船舶を自社で保有せず、代わりに独立系商船会社と貸切契約を結んでいます。この契約では、船員に現地で会社の規則に従うことが求められ、特に「生産妨害行為」、つまり現地労働者への暴行や殺害、故意か否かに関わらず逃亡を助けることに対しては重罰が課せられます。
 ちなみに帝国は軌道上に偵察局基地を維持し、これはアウトポスト(1926)の海軍基地やカサンドラ(1924)への連絡路として機能しています。

カサンドラ Cassandra 1924 B000538-C
 ここの小惑星帯は鉱物資源の供給源としては平凡で、一獲千金を狙う強欲な余所者が大勢流入するようなことはありませんでした。多くの小惑星帯がすぐに無秩序になってしまうのに対し、カサンドラにはしっかりとした政府があり、居住区では法と秩序が厳しく守られ、その他の空間でも法執行が公正に行われるよう努めています。しかし、昔からこうだったわけではありません。
 この星系は元々、ダカアル(0201) のダカアル・ミネラルズ社によって設立された入植地でした。1086年、耐え難い労働環境と冷酷な経営陣の仕打ちが激しい全面罷業(ゼネラル・ストライキ)を引き起こし、星系全体で生産と出荷が完全に停止されました。しかしこの反乱は意外にも短期間で、ダカアル社の撤退という形で決着しました。ダカアル社は当初から労働者の強制排除を検討していましたが、星系全体に散らばる怒れる鉱夫らを掃討する費用は、カサンドラから得られるささやかな収益には見合わないものだったのです。
 新政府となった「十人評議会(Council of Ten)」は、労働争議の初期指導者陣から形を変えたもので、反乱を起こした植民地を確固たる独立星系に変えるという困難な仕事を成し遂げました。非民主的ではありますが、今も評議会への不満は特に寄せられていません(ただ、宇宙鉱夫というものは上からの支配を本質的には嫌いますが)。
 評議会の下には、宇宙港や居住区画の治安維持、様々な自治法違反の捜査や逮捕状の執行のために、優れた警察組織が置かれています。この警察は20隻程の巡視艇を持ち、救難信号やその他の問題に対処できるようにしています。彼らはダカアル・ミネラルズ社による盗掘を特に警戒していますが、残念ながら防ぎきれていないのが現状です。
 ロックポートはBクラスの宇宙港施設です。ここへは通常の商業交通と鉱物輸送に加えて、アウトポスト(0306) の帝国軍艦艇を自由に入港させています。実のところ、労働者が蜂起中に帝国の表向きの中立と内密の支援を得られたのは、帝国との巧みな裏取引 (宇宙港の開放や優先的鉱物売却契約) の成果だったのです。

カレドン訛り Caledonian Anglic
 カレドン公王国やダンシニー連合の公用語はアングリックですが、古風な単語や発声法がある「カレドン訛り」として知られています。カレドン市民は帝国標準語(コア・アングリック)を容易に理解できるのに対し、多くのアングリック話者は独特なカレドン訛りには苦戦する傾向があります。

クトリング K'Tring
 「クトリング人」とも呼ばれる、ガージパジェ(1124)の東大陸に広く住む好戦的な人類のことです。彼らがどこから来たのかは調査が進んでいませんが、いわゆる《略奪者国家》の一つであるイルサラ帝国に関係があるのではないかと考えられています。
 彼らの技術力は西大陸のジアージェよりは上ですが、大洋を越えて侵略する程には至っていません。

クラヴァース大男爵デイビッド・マクスウェル提督 Admiral David, Earl Maxwell of Claverse
 マクスウェル提督はコリン公王の死後、エドワード・キャンベル卿とカレドンの玉座を争いました。1024年に内戦が始まるとマクスウェル軍は戦闘において優位に立ち、一時は「デイビッド5世」戴冠の目前にまで至りました。
 しかし同年後半のダンバートンの戦いに敗れると、マクスウェル派の最後の砦であるロブ・ロイ(1917)にて敗北が決定的となるまで指揮を執りました。その後は逃亡生活を送り、スカイー(2018)を経てジェルメーヌ(2019)に亡命しました。
 そして彼の子孫は今も、自分こそが公王国の正当な統治者であると主張し続けています。

コベントリー Coventry 1723 X565733-2 R
 コベントリーは、隣接するダンシニー連合が管理する刑務所星系です。約350年前に収容が始まって以来、ここは政治犯や刑法犯といった「好ましからざる者」を人道的に扱う場として効果的に運営されています。
 地軸の傾きによって季節変動が極端であるのを除けば、コベントリーはかなり過ごしやすい惑星です。よってここに収監されること自体が重罰というわけではありません。しかし連合海軍はガス惑星の衛星に監視所と2隻の10000トン駆逐艦を配備し、厳重な監視体制を敷いています。ガス惑星に立ち寄っての燃料補給は許可されていますが、速やかに星系外に出ることが求められます。当然コベントリー自体への着陸は禁止されていて、無許可で接近すると発砲されます。
(※余談ですが、リーヴァーズ・ディープ宙域の3207の星系もコベントリーという名前で、奇しくも暗黒時代の監獄惑星でした。ここでは残酷な人体実験が行われていたこともあり、2500年が経過した今でも「コベントリー送り」という言葉はソロマニ圏各地の刑務官の脅し文句として使われているほどです)

サンドスティンガー Sandstinger
生息地:タシュラカール(1927)
 節足動物のような小型生物であるサンドスティンガーは、6本の脚のうち前脚がシャベル状の鋏に発達していて、これを使って穴を掘り、鞭のような尾の先端にある針から強力な神経毒を放出します。サンドスティンガーは砂漠の端の砂丘地帯にある柔らかい砂の中に穴を掘り、見事に隠れます。そして、隠れ場所付近を歩く自分よりも遥かに大きな生物であっても毒で麻痺させて殺し、群れ全体の餌とします。ただしサンドスティンガーの毒はタシュラカール土着の生物を素早く殺せるよう進化したため、人類には遅効性であることが救いです。

ジェダーハイ Jhederhai
生息地:レジャップール(1218)
 現地を代表する大型の草食動物で、草原や砂漠に様々な適応を見せています。どの先住民文化でも荷役動物として利用されており、遊牧社会では肉や皮まで活用されます。
 外見は羽毛のないダチョウ(テラ原産)によく例えられます。長い脚、緩やかに巻かれた尾、蛇のような首を持ち、その先には黒い単眼の瞳と短い歯のついた嘴があります。大型の個体ともなると400キログラムになり、噛みつきや爪のある脚で蹴りつけて身を守ります。家畜化されて穏やかにはなりましたが、野生のものや、一部の遊牧民が訓練したジェダーハイは非常に危険な戦闘相手となりえます。

ジュラの墜落痕 Crash Jura
 グレンシエル(1912)のジュラ高地(high plateau of Jura)にある墜落痕は、初期ジャンプ技術で造られたサイエの宇宙船の残骸と考えられています。推定で約3700年前からあるこの遺構は、サイエに関心を持つ多くの考古学者や歴史家を惹きつけ、カレドン公王国と帝国の研究者同士が遺構への接触を巡って論争する事態にもなりました。結局宇宙船は、最終的にカレドン(1815)の研究所に移されました。
 宇宙船の中からは、サイエの従属種族(ヰン=ツァイやルーシャナなど)の美術品の他、破損こそしていましたがサイエの軍事基地で用いられたと思われる水晶の鍵(crystal key)が見つかっており、注目を集めています。

セント・ジョージ St.George 2616 A676AA6-C N
 ナイトリム星域の首都であるこの星系は、リーヴァーズ・ディープ宙域のコアワード側の帝国領(カレドン星域・ガルフ星域)を含めた行政の中心地であり、帝国海軍第47艦隊、海兵隊第7571連隊、陸軍ナイトリム方面司令部が駐屯し、様々な帝国系巨大企業が地域本部をここに置くなど、あらゆる意味でこの辺境における帝国統治の中核と言えます。
 現在のナイトリム公爵ネッサ(Duchess Nessa of Nightrim)は1047年生まれで、海軍の戦闘機操縦士でしたが訓練中に負傷して除隊となり、1080年に前公爵である父の死去を受けて公爵位を継承しました。

ソロモン Solomon 1538 B897A97-B N
 この星系に人類が最初に定住したのは、第二帝国時代でした。暗黒時代になるとここを中心とした《略奪者国家》が成立し、-800年頃から星域の覇権を賭けてロァホール氏族と争うようになりました。ソロモンはロァホール氏族が文化粛清によって弱体化した隙を突いて攻勢に出て、128年に氏族を撤退に追い込みました。しかし長きに渡る戦争と領地の膨張はソロモン経済をひどく疲弊させ、200年頃に星間国家は財政破綻で崩壊しました。ソロモンは工業の促進で窮地の打開を目指しましたが、大気は汚染され、人口は数百億人にまで急増してしまいました。
 フトホァーの和約後、ソロモンは帝国に支援を求め、最終的に経済・技術援助と引き換えに帝国海軍を基地に受け入れることに同意しました。これによりソロモン社会は安定し、人口も340億人前後で推移しています。

ダカアル級貨物船 Dakaar-class Freighter
 スターストリーム・エンタープライズ社設計のこの1800トン貨物船は、リーヴァーズ・ディープ宙域における長距離探査貿易でよく見られる商船です。優れた航続距離(ジャンプ-3)と十分な貨物積載量を備えており、ディープの独立星系間での収益性の高い事業展開が可能です。安全性を重視する一部の商人からは武装が足りないとは言われていますが、それでもカレドン商船の定番となっています。カレドン以外でも、例えばイルドリサール(2326)のアアリスキン社は8隻(うち、ドレンスラール号は最近消息を絶ちました)、カーリル(2330)の政府系企業であるカーリル運輸も数隻を購入し、他の独立系商社でも導入実績があります。

ダケン Daken 1830 C631233-9
 ダケンは極めて高温な乾燥した星で、水界はほとんどなく、極地以外で人類は生存できません。もしもテラのサンゴに似た「ゴールドサンド(Goldsand)」がいなければ、この惑星に人が住むことはなかったでしょう。
 この群生体は化学合成の仕組みで養分を得ながら、広大なエルグ砂漠の各地に生息しています。ゴールドサンドは香辛料としてだけでなく、スロードラッグなど医薬品の成分にも加工されます。群生体は砂漠に突然生えてきて、急速に成長した後、猛烈な砂嵐によって散り散りになることで新たな群生体を作ります。よって、ゴールドサンドの採取は嵐で飛ばされる前に素早く行わなければならず、当然危険が伴います。加えてゴールドサンドには、球状の体が猛毒の棘で覆われているサンドローラー(sandroller)という小動物が食料として寄ってくるため、採取は二重に危険な作業となります。
 南極の宇宙港周辺には、925年頃から続く750人ほどの入植地があります。彼らはこの過酷な砂漠の端での生活に慣れ、ゴールドサンドを採取して外世界に売ることで生計を立てています。SuSAGやダカアル社といった企業たちはこれまで、地元民抜きに直接ゴールドサンドを得ようとしてきましたが、惑星環境に慣れていない者には難しいこともあって、全て失敗に終わってきました。
 最近ダカアル社はゴールドサンド輸出の独占契約を強引に結ぼうとしましたが、地元住民は拒否しました。すると入植地で暴行脅迫や破壊活動が相次ぐようになったのです。当然、ダカアル社が裏で糸を引いていると疑われていますが、証拠は見つかっておらず、同社幹部も関与を強く否定しています。

タシュラカール Tashrakaar 1927 D651695-6
 砂漠の惑星タシュラカールは、恒星光が弱い熱帯の極地のみ生命を育む環境が整っています。それ以外は文字通り灼熱の死の砂漠なので、多くの住民は極海(Polar Sea)沿岸の「天に潤されし地(Heaven-Watered Lands)」に居住しています(ただし日中は湿気が多いのが悩みです)。約500万人の彼らは-1800年頃に漂着した地球人の子孫とされていて、数百年前に独立商人が「再発見」した頃には初期工業化段階の技術を持っていました。彼ら住民は礼儀正しく友好的で、現地のタカール語以外にアングリックを解する者も多いです。
 この星の主な経済基盤は、砂を吹き飛ばす大嵐「悪魔の息吹(デビルブロー)」の後、砂漠の地表で発見されるマンガンやコバルトなど様々な高純度鉱物資源の採取です。これらの鉱物は、中央砂漠がかつて海の底であった遥か昔に堆積したものです。現在、これらの鉱物資源は様々な鉱業会社(スターンメタルやデルガドといった巨大企業から、フルトン金属、ダイバースコ、ジェリコープ、ダカアル・ミネラルズといった独立系星域規模企業まで)の関心を集めており、彼らは「鉱石クローラー(orecrawler)」と呼ばれる巨大な履帯式岩石採取車両で採取しています。クローラーがゆっくりと進むにつれて砂漠の表面から貴重な鉱物が採掘され、無価値な屑石(スクリープ)は後方に投棄されます。
 星系政府(部族長らの集まり)は、採掘事業に関心を持つ企業にクローラー操業の許可証を発行し、外世界企業に課税と規制をかけます。特定の土地を鉱石採掘のために利用するには一定(数百万クレジット規模)の賃貸料が発生し、現地の貴重な税収となります。ただし最近では、各種政策が巨大企業寄りだと独立企業が不満を訴えています。
 今、現地が直面している危機はいくつかあり、一番は地元で「砂賊(デューンレイダー)」として知られる粗暴な集団です。かつての入植地からの追放者の末裔である砂賊たちは、広大な砂漠の端の荒野で遊牧生活をしています。砂賊と住民は激しい敵対関係にあり、砂賊に捕まった者は、水をもたらすために砂漠の神々の生贄に捧げられることがよくあります。砂賊の中には平和的な交渉に応じる部族もいますが、大半は情け容赦ありません。
 そして伝統的なタシュラカール文化は、技術の進んだ外世界企業によって衰退傾向にあります。多くの若者が農地や家業を捨てて企業や宇宙港への就職を目指しており、長老たちを嘆かせています。
 余談ですが、ここの帝国企業にとってアウトポスト(1926)の海軍基地の存在はいい「後ろ盾」となっています。これは独立系企業には得られない利点です。

ディアブロ Diablo 2423 B9C7477-9
 この星の地表は500℃以上・60気圧という極めて過酷な環境で、全く居住には適していません。そこではあらゆる防護服は12時間以内に無力化され、車両や宇宙船は損傷しなくても故障が多発します。そんな地表に出るのはよほどのことです。
 それでもディアブロは、工業用デイストーン(daystone)の主要な産地です。これは超高圧下で形成されるダイヤモンドよりも遥かに硬い物質で、多くの産業向け用用途があります。これを求めて、ディアブロには様々な企業が地下採掘複合施設(通称エンクレイヴ)を建設しています。
 エンクレイヴは外気の圧力と高温に対して厳重に対策が取られ、採掘作業はそこから必ず地中を掘ることで進められています。各エンクレイヴには小型艇の発着場があり、(意外にも地中採掘に関心のない)オルタレ社運営のBクラス軌道宇宙港との間で行き来がされます。
 それぞれのエンクレイヴは、デルガド、LSP、スターンメタルといった巨大企業や、星域規模の独立企業が管理する言わば「企業城下町」です。経営陣が労働者を完全に支配しているので、労働環境は過酷になりがちです。そして、各企業に雇われた傭兵が独自の企業法を執行しています(企業によって厳しさに差はありますが、平均治安レベルは7です)。
 なお現在、デルガドとスターンメタルによる小競り合いの余波で、ディアブロも不安定な状態に置かれています。両社は警備強化のために傭兵を追加雇用しており、やがて全面衝突に至るのではと危惧されています。

天的聯盟 Celestial League
 現在の和諧同盟の前身である天的聯盟は、-2000年代に築かれた華人系ソロマニ人入植地を起源に持つウートオ星域とエァコィ星域のいくつかの世界から構成されていました。暗黒時代の間もジャンプ技術を維持し、時折《略奪者》の艦船の供給源ともなりました。
 フトホァーの和約が締結されるまではアスランとの絶え間ない紛争が聯盟を強く結びつけていましたが、その後まもなく内部抗争によって分裂しました。856年に和諧同盟として再結集するまで、かつての加盟世界は何世紀もの間、戦争によって苦しみ続けました。

トーレァ Htalrea 1226 E767610-1 R
 この星系はマールハイム大公国とダンシニー連合の狭間のエァ星団に位置し、固有生物リスタッハから採れる「リッス香(Risthscent)」の産地として主に知られる、自然豊かな未開発世界です。アスランのイェホソー氏族の事実上の属領であり、上空軌道上にはアオシタォハ級巡洋艦が少なくとも1隻は常時配置されていて、許可なく接近すれば警告無しで攻撃されます。こことの貿易は同氏族の商社ハテューウィに完全に独占されていて、帝国などの人類企業には加工した化学物質を法外な値で売りつけています。
 イェホソー氏族によるこれらの封鎖と独占によって、この星系のことはほとんど外部には知られていません。非常に古い記録によれば、二大大陸のうち北大陸の方には二足歩行の原始的な先住知的種族がいたということです。

ドリンサール・ループ Drinsaar Loop
 リーヴァーズ・ディープ宙域の3星域(エァコィ、ドリンサール、ドレシルサー)に跨るドリンサール・ループには、23の星系が含まれています。この星団の銀河回転尾方向(トレイリング)端にあるドリンサール(2032)は、人類がこの近辺を探査する際に玄関口となった星系で、現在ではかつてほどの重要世界ではないものの、その名前は星団の名称に残されています。

ドレールサール Drellesarr 2029 B310550-A A
 この星の起源は、かの《略奪王》ブラックジャック・デュケインの隠遁先だとされています。この過酷で荒涼とした世界には売り物になる資源も何もなく、住民はこの星で生き延び、繁栄するためには己の知恵と責任で文字通り「何でも」しなくてはなりません。
 ドレールサールは、あらゆる意味で自由な港です。ここでは何ら制限も手続きもなく、素性も聞かれずに何でも売買できますし、修理や改造も請け負います。超能力研究所すら公然と営業しています。なぜならここは帝国の国境外であり、超能力を嫌う文化もそれほどないからです(心理的抵抗がないこともないようですが)。基本的にドレールサールの人々は、金になるものなら何でも寛容です。
 ドレールサールには警察どころか法律もないため、公式にアンバーゾーン指定がされています。ここでは誰もが武装しているので、常に礼儀正しく警戒を怠らないことが求められます。また、関税もないためあらゆる物価が下がります(25%引きが目安です)が、一般的には違法とされる商品やサービスはそれほど安くはありません。
 最後に、ここで入手できる物の多くは盗品や偽物であることを忘れないでください。そのような「訳アリ商品」を買ってから元の所有者が現れた場合、購入者がどうなるかはわかりません。

ドレシルサー Drexilthar 1826 B56969D-7 S A
 ドレシルサーは奇妙な惑星です。水界の量はその重力に対してあまりに多く、古代期の大規模な惑星改造が疑われています。海にしか生息していない土着の生命体は原始的で、大部分の生命は既知宙域各地から太古種族によって持ち込まれたものです。
(※この段落は、UWPの規模が2だった頃に理由付けとして作られたものです。規模5に修正された新設定下では不要となりましたが、太古種族による関与があった星系であることには変わりないため、残してあります)
 主要な3大陸は回帰線帯に位置し、全体的に寒冷なこの惑星の中でも一年中快適に過ごせます。しかし赤道地域でも氷山が流れ込んでくるため、遠洋航海は非常に危険です。
 ここを故郷とするイルサラ人が近代化する前の陸地の多くは密生した樹林に覆われ、そこはオーロクス(※家畜牛の祖先)やマストドン(※象の一種)や剣歯虎が支配していました。その後のイルサラ人の文明の進歩は生態系に多少の影響を与えましたが、それ以上に帝国による286年の核攻撃は生態系に深刻な影響を与えました。
 ドレシルサーの住民は極端に軍国主義的で、攻撃的で、政権に従順で、弱者への同情や慈悲の心を持ち合わせていません。この文化は、政府が実施する厳しい軍事訓練によるものです。ドレシルサーの人々こそが銀河で最も優秀な人類であると教えられ、外世界人は弱虫だと軽蔑されます。地元の過大な治安警察と外世界人への差別により、トラベラー協会はこの星系にアンバー・トラベルゾーン指定をしています。しかしこの星の宙域史における存在感もあってか、少なくはない訪問客は監視付きで惑星内を歩き回ることが許されています。
 ドレシルサーは先進技術の入手に非常に関心を持っていますが、技術移転はダンシニー連合、カレドン公王国、帝国、カーリル合州国の間の暗黙の了解によって禁じられています。
 この星系の帝国偵察局基地はガス惑星の衛星に建設され、専門家がドレシルサー社会を詳しく調査しています。また小惑星帯がドレシルサーのすぐ外側の軌道にある関係で、この惑星は流星が落下しやすい環境にあります(年1回の頻度で直径2~3メートル程度の物が落ちてきますし、古代イルサラ文明の一つが隕石激突で滅んでいることも確認されています)。よって偵察局基地は、ドレシルサーに警告を発するための「全天監視」の機能も兼ね備えているのです。

トローヱァエァウィ=フロスーオ戦争 Tralyeaeawi-Hrasua War
 かつてのダーク・ネビュラ宙域で、トローヱァエァウィ氏族は最も強大な氏族とみなされていましたが、その力の源泉は人類との経済的交流でした。発展途上だった頃のアスランは、技術的に進んでいた人類に手を出すことができず、むしろお互いに交易から得るものの方が大きかったのです(※暗黒時代で衰退しつつあった人類の方もアスランの矛先、いや爪先をかわすために下手に出た、という事情もあったようです)。
 しかし-1100年代後半ともなると技術力の差はほぼなくなり、アスランにとって人類の星系は魅力的な獲物に見えてきました。加えて、トローヱァエァウィ氏族が他氏族との競争でその地位が揺らぎ始めていた時期でもありました。
 やがて好戦的なフロスーオ氏族と、その家来フロウオーアォ氏族が暗黒星雲に近いミザー星団(Mizah Cluster)の人類星系を侵略し始めると、-1120年に、利権を失うわけにはいかないトローヱァエァウィ氏族は両氏族に宣戦布告せざるを得なくなりました。これが俗に言う「アスラン国境戦争」の発端とされる出来事です。
 開戦当初はフロスーオ氏族が主導権を握って圧倒しましたが、2年目に入るとトローヱァエァウィ氏族は兵站上の優位性を発揮して消耗戦に持ち込み、両勢力は徐々に疲弊していきました。イェーリャルイオー氏族が停戦の仲介を申し出た時には、両者は喜んで受け入れました。
 この戦争は痛み分けで終わりましたが、もはやトローヱァエァウィ氏族が人類星系を守ることができないことも示しました。アスランによる人類星系への襲撃は直後から増加を続け、その後約1500年間に及ぶ戦乱の時代に移っていったのです。
(※GURPS版などでアスラン国境戦争の開始を-1118年としているのは、この戦争の停戦(もしくはヤロスラフの戦い)を境に時代が変わったという解釈だと思われます)
(※ちなみに、(現在のシークエル(ダーク・ネビュラ宙域 2225)を中心とする)ミザー星団はGDWのボードゲーム『Dark Nebula』の一舞台です。ミザーはイェーリャルイオー氏族とも対等の同盟関係を結べるほど強力な人類星系でしたが、なぜイェーリャルイオー氏族がこの同盟を反故にしたのかは不明です(長年敵対しているトローヱァエァウィ氏族を戦いに巻き込んで消耗させる狙い?))

トロソイェーロテール Tlasayerlahel
本社:クーシュー(ダーク・ネビュラ宙域 1226)
 アスランの最大手企業であるトロソイェーロテール(直訳すると「恒星間商社」)は、元々イェーリャルイオー氏族領内の星系間輸送を担うために設立されました。氏族が成長するにつれて会社も成長し、現在ではアスラン領全ての主要星系間の貨物や旅客の輸送を担っています。
 アスラン企業の類に漏れず、同社もイェーリャルイオー氏族(の男性)が出す指針に従って、氏族から送り込まれた女性経営陣がこの巨大企業を動かしています。

風霊獣 Windstalkers
 グレンシエル(1912)のアネクトール山を訪れる狩人や登山者の間で語られる話として、到達できないような高い岩棚の上から獰猛な「風霊獣」が吠えて、登山者の死を予告するというものがあります。話に出てくる四足獣はグレンシエルの生物形態である六足獣とは異なるため、一般的には虚構と退けられています。
 しかしそれでも、何人かの者は間違いなく何かを見たと確信しています。

フトホァーの和約 Peace of Ftahalr
 帝国暦380年にアスランの(当時の)4大氏族(イェーリャルイオー、トローヱァエァウィ、ハウヘアイール、フロウオーアォ)と帝国との間で交わされた和平条約のことで、これによって数世紀続いたアスラン国境戦争を終わらせ、両者の間に約30パーセクの緩衝地帯が設けられることになりました。
 和平へのきっかけとなったのは、374年にハウヘアイール氏族の巡視船にOEU(古き良き地球同盟)の探査船が撃沈されたとされる事件です(※ただし事実として、当時のOEUは条約違反を繰り返していました)。これにより、アスラン氏族連合(4大氏族と16の小氏族)とOEUが3宙域を巻き込む全面戦争状態となりました。人類のいくつかの小国は帝国に和平介入を要請し、アスラン氏族側も帝国の調停者としての責任を訴えました。377年に皇帝マーティン3世はアスランに謝罪することで事態の沈静化を図りましたが、彼らの名誉を満たすにはこれでは足りませんでした。一方で29選(トラウフー)も戦闘のこれ以上の激化は望んでおらず(※このまま戦争が続けば帝国が氏族を各個撃破して母星クーシューに到達する、という恐れがあったようです)、帝国に使者を送って儀式戦争による解決を提案しました。慎重な検討が行われた後、帝国も受諾しました。
 378年、帝国軍と氏族連合軍の「決闘」がガヴザ(リーヴァーズ・ディープ宙域 1117)とカファル(ダイベイ宙域 1539)を賭けて行われ、何度かの交戦の末に先に帝国軍がガヴザを攻略して勝利しました。続く2年間で和平協定の詰めの交渉が行われ、最終的に380年にフトホァー(ダーク・ネビュラ宙域 1208)にて帝国と4大氏族の間で和約が調印されたのです。確かに全氏族が参加したわけではありませんが、和約に反することは4大氏族への侮辱となるため、報復を避けるためにも和約を尊重しています。一方で、ソロマニ連合は自治区時代から緩衝地帯の星系の併合を繰り返しており、今や連合の国境線はアスラン領に接してしまっています。
(※和約調印の席にて氏族側から謝罪が行われているので、敗者が勝者に謝罪をするのが「決闘」の条件に含まれていたと思われます)

「ブラックジャック」デュケイン "Blackjack" Duquesne
 彼は-1120年から-1100年頃に存在したとされる悪名高い《略奪者》です。多くの民話や伝承が彼と宇宙船スカイラーク・デュケイン号について伝えていますが、彼についての歴史資料は驚くほど少ないのが実情です。

ボタニー・ベイ Botany Bay 1734 E643569-5 A
 この星系は古くからドリンサール・ループの補給地として利用されていて、アスラン国境戦争の時代には帝国軍の仮設補給拠点も置かれていましたが、フトホァーの和約で撤去されて以降は無人になっていました。
 492年、ウー(マジャール宙域 0203)の大企業アフェリオン・エンタープライズ社(Aphelion Enterprises)がまず鉱石採掘拠点を築き、マジャール宙域が第三帝国に併合されると(帝国では非合法となるような)遺伝子操作研究もここで行うようになりました。しかし、アフェリオン社の輸送部門がテュケラ運輸との競争に敗れて収益が悪化すると、ソロマニ・リム戦争がとどめとなって破産に追い込まれました。ボタニー・ベイの管理職や上級研究者はここを去りましたが、一般の労働者はどこにも行くあてはありませんでした。代々働いてきた者にしてみれば、この星はもはや故郷なのです。
 この星が存続していくためには外部からの援助が必要なことは明白であり、住民たちは鉱石の買い手だったグラリンに助けを求めました。当初グラリン政府は帝国やソロマニ連合の不興を恐れて躊躇しましたが、同情した世論の圧力に押され、最終的にボタニー・ベイをグラリンの一員として迎え入れることで合意しました。
 戦後、帝国やソロマニ連合はボタニー・ベイの資産を取り戻そうと法的手段に訴える構えも見せましたが、緩衝地帯の性質上露骨に動くこともできず結局見送られました。破滅の危機を乗り越えたボタニー・ベイはグラリン統治下でむしろ繁栄し、数千人だった人口は30万人にまで膨れ上がりました。
(※グラリン市民が同情したのは、第二帝国に見捨てられた先祖がドロインの温情を受けられたからこそ、今の自分たちがあるからです。なお、この星系がアンバーゾーン指定されている理由は不明です)

マザー・シンブラ Mother Simbula
 「マザー・シンブラ」とは、レジャップール(1218)出身の知識人であり革命家でもある、ハップラーニ人のルラーナ・リハヌール(Lurana Rihanur)の筆名です。SDTC社に雇われた医師の家庭に生まれた彼女は、留学先のジェルメーヌ(2019)で革命思想を身に着けたと思われます。彼女は優秀な学生で、1074年には名門大学の経済学博士号を得ました。
 リハヌールはレジャップールに戻ると教員と労働運動家を掛け持ち、活発に執筆活動を行いました。彼女は治安紊乱や器物損壊の容疑でSDTCの警備部門に幾度となく勾留されましたが、それでも怯まなかった彼女の賛同者は徐々に増えていきました。
 そんな中、SDTCがリハヌールを重罪で捕らえようとしているとの密告があり、支持者は彼女を星系外に脱出させました。その後彼女は1年間公王国内を逃亡しながら執筆を続け、ジェルメーヌに戻って再び教鞭をとり、そして「マザー・シンブラ」の名でレジャップールの窮状を暴露する挑発的な論文『星間商業について(On Interstellar Commerce)』を発表しました。この論文で彼女は、恒星間企業が持つ本質的な搾取構造を力強く説得力ある文章で痛烈に批判し、植民地支配の打倒を訴えました。彼女の論文は星域全体で広く読まれ、議論され、帝国の学会でも注目されました(が、共感は広まらなかったようです)。そして故郷レジャップールでも、革命を求める「シンブラ主義(Simbulan)運動」を巻き起こしました。SDTCはこの論文を強く警戒して現地では禁書としましたが、地下出版の複製本が密かに広まり、労働者の間で熱心に読まれました。
 SDTCはすぐに「マザー・シンブラ」の正体を突き止め、リハヌールを危険なテロ首謀者として監視対象にするようカレドン当局に働きかけました。それでも革命運動が収まらないと、SDTCは彼女を黙らせるために更に手段を選ばなくなり、何年にも及ぶ脅迫と誹謗中傷の末に2度の暗殺も試みました。彼女は1099年以降は隠遁生活を送らざるを得なくなりましたが、しかしこれらの行いはむしろ、人々のシンブラ主義への関心を高めただけでした。

マット草 Matweed
生息地:スカイー(2018)
 スカイーの海上に厚く絡み合って浮かぶ植物です。適切に処理されれば優秀な食品となりますが、残念なことにその花粉は人類の8割に危険なアレルギー反応を起こさせます。

ヤリザメ Lanceshark
生息地:メル(2414)
 その味の良さで広く知られている、小さな雑食性水棲生物です。
 ヤリザメは回遊性生物で、彼らの移動距離はその生涯でメルの半球ほどにもなります。繁殖率は高く、現地の「筏集落」が群れのそばで捕獲を続けていても群れ自体に全く影響を与えないほどです。

ヤロスラフの戦い Attack on Jarslav
 多くの歴史家がこの戦いを、《略奪者》の時代の終わりを象徴する出来事と指摘しています。-1500年代の成立以来、複数の宙域を荒らし回っていた《略奪者》たちでしたが、-1100年代に入るとアスランとの戦いで疲弊し、特にダーク・ネビュラ宙域からは完全に掃討されてしまっていました。
 -1118年、マジャール宙域を進発した大規模な《略奪者》連合と、テラ商業共同体(TMC)やディンギル連盟から成るオピリョク防衛連盟(Opljiok Defense League)がヤロスラフ(ソロマニ・リム宙域 0123)で激突し、《略奪者》側は全軍の3分の2を失う大敗を喫しました。
 この戦いの余波でマジャール宙域の《略奪者》は姿を消し、唯一残されたリーヴァーズ・ディープ宙域の《略奪者》も小規模の軍閥に分裂し、小国を乗っ取るなどして姿を変えていきました。

ラジャンジガル Lajanjigal 1721 DAB6513-8 A
 不気味な黄緑色のもやに包まれたラジャンジガルでは、無防備だと塩素大気によってすぐに死んでしまいます。それでもこの世界には、この大気に適応した全く特異で多様な生態系があります。そんな中で進化した三足歩行の知的種族がラングルジゲーです。彼らは原始的ではありますが、知的で賢いです。
 1080年、ダカアル社の一部門であるダカアル・トレーディングの調査船が、ラジャンジガルには様々な希少金属や放射性物質が豊富にあることを確認しました。しかし従来の採掘技術は特異過ぎる環境のこの星ではほとんど役に立たず、採掘費用が法外な価格になりそうであることがすぐに判明しました。
 そこでダカアル社は、腐食大気の中でも制約なく採掘できるラングルジゲーを利用することにしました。最初は募集でしたが、次第に強引な手段で連行するようになり、ラングルジゲーの側から抗議と抵抗が始まりました。それに応えるようにダカアル社は彼らの小村落2つを爆撃したため、やむなくラングルジゲーは服従しました。
 ラングルジゲーは明らかに搾取されていて、社の設定した高い生産目標を達成できなければ過大な罰が課せられています。様々な星系外の団体がこの奴隷労働に対して抗議を行い、ラングルジゲーにも援助を申し入れましたが、成果はなく、彼らも援助を受け入れません(外世界人を信用できないからです)。
 Dクラス宇宙港相当の小さな軌道施設がダカアル社によって維持されていて、そこにはミサイルを装備した小型船が数隻、異種大気戦の訓練を受けた傭兵小隊、技術者や管理者が詰めています。この星系には鉱石を回収するために定期的に貨物船が寄港しますが、それ以外で外世界との接触はほぼありません。

「乱暴者」アリソン・マードック Alison "Hellion" Murdoch
 フトホァーの和約(380年)以降の有名な海賊です。様々な創作物で知られる彼は、393年にチャニング准将(Commodore Channing)が指揮するカレドン軍によってブラックウィドウ号と共に撃破されました。
 彼が奪い取った財宝の多くは、今も見つかっていません。噂では一部は愛船と共に失われたが、多くは彼だけが知る秘密の隠れ家に残されている、とのことです。そして財宝の存在は、えてして詐欺師たちが撒く餌の材料にもなっています。
(※この隠し財宝の真相はシナリオ『Hellon's Hoard』にありますが、宙域内ならどこでも他の隠し財宝があってもなくてもおかしくありません)

リスタッハ Risth
生息地:トーレァ(1226)
 機敏で獰猛な肉食動物であるリスタッハは、長く粗い剛毛で覆われていて、大型の個体ともなると体重は200キログラムにもなります。森林地帯に生息し、木々に覆われた丘陵や起伏の多い岩場、洞窟などに巣を作ります(そのためリスタッハ猟には徒歩が最適となります)。彼らは木や岩の上から飛び降りて、強力な爪を使って獲物を襲うことを好みます。リスタッハは単独で狩りをしますが、つがいは同じ巣穴を共有します。
 リスタッハの臭腺は様々な匂いを発散させて、求愛や狩猟や追跡など重要な役割を果たしています。この臭腺は高級香水「リッス香(Risthscent)」の原料として、人類やアスランだけでなくジアージェなど様々な種族の間で高い需要があります。なお、リスタッハ1頭から採れる原料は約0.5リットルと言われています。
(※リスタッハはトロール読み、リッスはアングリック読みです。-scentはアングリック由来の単語ですからそれに揃えました)

《略奪者》 Reavers
 一般的な海賊(Pirates)と同様に、独立して非合法の活動を行う船団を指す言葉ですが、海賊は船や航路を襲う能力のみを持つのに対し、《略奪者》たちは星系政府そのものを襲い、乗っ取ることすらできた、主に-1500年から-1100年にかけてダーク・ネビュラ、マジャール、リーヴァーズ・ディープを荒らし回った集団を指します(その特異性を表すために《》付きで表記されます)。
 暗黒時代が訪れると、この辺境の星々ではジャンプ技術を保持できた者がそうでない者から略奪をするようになりました。これが《略奪者》の始まりです。中には生命維持装置を奪われて1100万人が犠牲となったジャネット(1521)のような大惨事に至ったものもあり、その恐怖は現代に至るまで人々の記憶に残されました。ただし、《略奪者》は常に無法の限りを尽くしていたのではなく、時にはイホテイの進出から人類世界を守り、貴重な技術や知識を保つことに貢献したこともありました。
 最盛期には徒党を組んだ《略奪者》たちがソロマニ・リム宙域まで襲撃していましたが、アスランがますます強大になるとダーク・ネビュラ宙域からは掃討され、他宙域の《略奪者》も危険を冒すことを避けるようになりました。そして、-1118年にリム宙域諸国による防衛同盟がヤロスラフ星系での戦いで《略奪者》連合を打ち破ったことで、《略奪者》の時代は事実上終わりを迎えました。リーヴァーズ・ディープ宙域では分裂した《略奪者》が軍閥化し、小国の乗っ取りや後進世界の征服などを通じて長く権力を保ちました。
 -1000年代に「ブラックジャック」デュケイン、「淡紫の」ウー・ルー、イザナク大提督といった伝説的な《略奪者》たちが登場していますが、それが最後の輝きだったかのように《略奪者》は姿を消していきました。やがてフトホァー和約が成立した後の緩衝地帯は、「乱暴者」アリソン・マードックに代表される海賊の時代となったのです。今では《略奪者》という単語は少々美化されて、自由を愛する義賊のようにも捉えられています。
(※こうして《略奪者》が再定義されましたが、世間一般的には「和約の前か後か」で区別されているようです)

略奪者俗語 Reavers Cant
 《略奪者》たちはそれぞれ、自分の仲間内だけで通じて敵味方の識別を容易にする独自の言語を発達させていきました。それは《略奪者》の数だけ存在し、今も一部の地域(マールハイムやカーン)で話されています。
 これらは基本的にアングリックの派生言語ではありますが(※他言語からの派生ももちろんありえます)、現在のアングリック話者が俗語を一度聞いただけで理解するのは困難です。

ルウシャカアン Luushakaan 2021 D541513-5
 薄暗く赤い主星の周りを周回しているルウシャカアンは、冷たく陰鬱とした世界です。平均気温はどこも0度以下で、多くの地域では遥かに下回ります。入植者は各地の活火山の周辺に住んで熱を得ていますが、それはそれで別の危険性があります。
 ルウシャカアンはこの星域にありがちな採掘惑星です。この星は帝国の巨大企業であるスターンメタル・ホライズンの支配下にあり、独占的に採掘事業を営んでいます。
 その厳寒な気候に反して、ルウシャカアンは「熱い」星です。放射性物質など様々な価値ある巨大な鉱脈は、スターンメタルにとって絶好の投資先であり、競合企業からの羨望の的となっています。しかしここ最近、この星は何者かによる襲撃を受けています。数々の証拠はデルガドの仕業であることを強く示唆しており、スターンメタルはカサンドラ(1924)のデルガド施設に対し、小規模の報復攻撃を2度ほど仕掛けました。

レヴィー肉 Leviemeat
 レヴィー肉はスカイー(2018)のレヴィーから加工される、人気のある食品です。レヴィー(「レヴァイアサン」の略)は深海に生きる巨大生物で、体重は最大100トンにもなります。
 狩りは6隻一組の小さな潜水艇によって行われ、仕留めた後に潜水夫によって装着される空気袋によって地表まで引き上げられます。それはとても危険な仕事で、レヴィーの尾の一撃で潜水艇ごと作業員がバラバラにされるだけでなく、仕留めた後でも大型の清掃生物と肉を争うこともあるのです。

レジャップール Rejhappur 1218 B651613-A A
 ハップラーニ人の故郷であるレジャップール(現地語で「家なき者の地」)は、カレドン公王国の属領です。砂漠と草原がどこまでも広がり、逆に言えば大きな水域がほとんどないこの星は、人が住みにくい所です。しかし、価値ある産品と交通の要衝という2つの好条件が相まって、外世界から人がやって来るようになりました。ハップラーニ人は新参者の存在に完全には慣れておらず、この状況は大きな摩擦を引き起こし、容易く全面的な紛争に発展する可能性があります。
 暗黒時代から数度探査が行われたこの星系ですが、この時点では特に価値があるとは思われていませんでした。800年代にカレドン公王国はレジャップールの衛星クラシュラマルにDクラス宇宙港を設置しましたが、これも単なる経由港に過ぎなかったのです。
 そんな中、SDTC社(Scotian Deep Trading Company)は先住民ハップラーニ人が飲料に加工していた原生植物ジャイヘブレクに目をつけました。公王国からレジャップールの開発勅許を得たSDTCは、栽培したジャイヘを輸出するために、補助金を受けて846年にクラシュラマルの宇宙港をCクラスに拡張しました(※公王国としてはリース(1019)、ブライトン(1020)、ダンマーロウ(0921)方面との交通量を増やす目論見もありました)。そしてジャイヘは公王国や帝国で人気を博し、SDTCの富の源泉となりました。
 当初は先住民と協調しながら開発と栽培が行われていましたが、王朝危機後に同社は昔ながらの耕作地を最新式の大規模農園(プランテーション)化するなどして、生産量と収益を飛躍的に増加させました。ハップラーニ人の農耕民の多くは「労働者」に姿を変え、昔よりは生活は豊かになったものの、自分たちの伝統文化が蔑ろにされ、搾取や差別の対象となっていることに不満を募らせていきました。
 そして更に欲深くなったSDTCは、遊牧民の住む草原も農園として収用し始めました。遊牧民らは激しく抵抗しましたが、1059年の「シンブラの戦い(Battle of Simbula)」でSDTCの傭兵部隊が10倍の遊牧民連合を破って鎮圧しました。それでも近年、SDTCの入植地に対して遊牧民が襲撃を繰り返すなど、先住民の間で不穏な動きがあるという報告が増えています。しかし、同社の代表者は不安を抱く投資家やカレドン当局に対し、心配無用との主張を繰り返しています。

ロァホーイ Roakhoi 1224 C969543-5
 ここには人類とアスランが半々に住んでいて、両者の文化の融合が見られる珍しい星であることから社会学者の関心を集めています。別々に入植した彼らは原始的ながらも豊かで興味深い社会構造を形成し、今は外世界の商人からゆっくりと新技術を吸収しています。
 -645年、英雄レァヒャハヤーウ率いるアスランがロァホーイに入植しました。彼らは氏族間戦争で領地を失い、この星に流れ着いたのです。しかし火山噴火・疫病・飢饉など相次ぐ自然災害によって、2世代後には植民船や技術基盤は破壊されていました。
 続いて-480年、アンディロス(1328)を目指していた人類の植民船ボールド・エンデバー号は《略奪者》の攻撃を受け、ロァホーイにミスジャンプして不時着しました。初めは双方敵対的で血も流れましたが、やがて生存のために協力しあい、主にアスランの文化価値観を重んじた統合社会を築きました。
 アスランの貿易企業ハテューウィは1058年に対外貿易を開くまで、何世紀にも渡ってこの星を封鎖して貿易を独占していました。同社は宇宙港も運営しており、1098年にはDクラスからCクラスに拡張を行いました。
 ロァホーイ星系はトラオシエーという樹木の産地として有名です。この種子はトラオスパイス(トラオ)やシーズンゴールドと呼ばれる香辛料、トラオシエーロフロウを生産するために利用されます。
(※トラオの小売価格は1グラムで3クレジットが相場だそうです)

ロジャー・マクスウェル Roger Maxwell
 ジェルメーヌ(2019)に亡命中であるマクスウェル家の現在の当主で、「公王ロジャー1世」を僭称している人物です。彼は現在の公王国内の緊張を利用して、反乱を企てていると言われています。
(※その一方で、中年の彼は酒や薬物の中毒者で、私利私欲で玉座を求めているという噂もあります)

和約遂行艦隊 Ftahalr Enforcement Fleet
 モーブ(3232)を母港とするこの帝国艦隊は、フトホァーの和約を履行するためだけに編成された特殊部隊です。主に巡視艦と軽巡洋艦で編成され、多くの危機的状況や外交事件や実戦経験を積んだ強者揃いが乗り込み、特に、全ての艦船にアスランとの交渉に長けた人材が配属されています。
 艦隊の任務は困難なものばかりで、目につく全てを奪おうとするイホテイから、本来進出すべきではない星に出ようとする人類企業、そして復讐を企図したり単に戦いを求めている集団まで、放置すれば深刻な紛争に発展しかねないものばかりです。艦隊はそれらの危機が起これば多くは援護なしに解決し、すぐに次の危機に向かわなければなりません。
 これまで艦隊は平和維持に見事に取り組み、双方に対して公平かつ名誉ある対応をしてきました。そのかいあって多くのアスラン氏族から尊敬を集め、中には顧問を派遣する氏族もあります。

ワリニル公爵クレイグ・リティニニン Duke Craig Litininin Horvath of Warinir
 1026年生まれの彼は、1059年に父クレイグ・ローガン(Duke Craig Logan Horvath)の死去を受けてエッジ星域公爵(つまりワリニル公)となり、1073年にアムダニ公セナパイ(Duchess Senapai of Amdani)の死去後に宙域公爵に選出されました。若き日の彼は政治に無関心でしたが、宙域公爵就任後は、形骸化していたダイベイとリーヴァーズ・ディープの両宙域の貴族による「高位貴族院(Moot of High Nobles)」を復活させ、貿易や防衛など様々な政策が活発に論議される場となっています。
 彼の唯一の嫡男はクレイグ・アントン伯爵(Count Craig Anton Horvath)ですが、彼もまた父に似て政治に関心を示さず、名門ランヌ家の令嬢と結婚こそしたものの、ダイベイ兵站基地で技術教官の仕事に没頭しています。仮に宙域公爵の継承問題が今発生すれば、その地位はイイネン公かコンダ公に移るのではないかと噂されています。
(※「彼はリティニニン公と呼ばれるのを好む」という設定がありますし、ホルバス家が3代に渡って名前がクレイグであることから、代々クレイグ・ホルバスという名を継承してセカンドネームで呼び合うことが伺えます。つまり、リティニニンにしろアントンにしろ、これが母の名字ではないことが(帝国貴族としては紛らわしいのですが)確定しました)


【参考文献】
・Pilots Guide to the Drexilthar Subsector (Gamelords)
・Double Adventure 6: Night of Conquest (Game Designers' Workshop)
・Travellers' Digest #16 (Digest Group Publications)
・GURPS Traveller: Alien Race Vol.4 (Steve Jackson Games)
・GURPS Traveller: Humaniti (Steve Jackson Games)
・The Solomani Rim (Mongoose Publishing)
・Deep and the Dark (Mongoose Publishing)


 なお、レフリー限定のライブラリ・データはこちらに分割しました。

リーヴァーズ・ディープ宙域 ライブラリ・データ(レフリー限定)

 以下に書かれているのは一般には知られていなかったり、伏せられていたり、1105年以降に判明したりする「プレイヤーには秘匿すべき」情報です。

 

 


【ライブラリ・データ(レフリー限定)】
宇宙港の虐殺 Starport Massacre
 イルドリサール(2326)で1109年に発生した事件のことです。合州国でダルドリーム新政権が発足してから、この星では抑圧的な政策への不満が住民の間に高まっていました。
 そして1109年148日、宇宙港周辺で抗議活動を行っていた住民に合州国平和維持軍(Assembly Peacekeepers)が発砲してデモ参加者314名が死亡し、これをきっかけにイルドリサール全体で反乱の火の手が上がりました。国軍側は精鋭アスラン傭兵のテレーイホーイをも投入して宇宙港といくつかの都市を制圧しましたが、反政府過激派「イルドリサール愛郷戦線(Ildrissarian Patriotic Front)」が主体の地元暫定政権側も、有名な傭兵部隊であるカレドン・ハイランダーズの2個大隊と契約して対抗しています。

ガージパジェ Gaajpadje 1124 E667874-4
 1108年のカレドン・ベンチャーズ社との貿易協定締結を受け、都市国家リジュジャにCクラス宇宙港の建設が進んでいます。完成は1120年頃と見込まれています。
(※アスランとの交易は長年Eクラスで済んでいたので、この建設は人類主導で行われていることが推察されます)

カーリル合州国 Carrillian Assembly
 ダルドリーム大法官は、1107年に新たに国家非常事態宣言を発令しました。既に大法官へ様々な権限委譲が行われていたため、合州国市民は為すすべがありませんでした。ダルドリームはすぐに報道機関を取り締まり、反対派を捕らえ、更に自党からも穏健派や政敵を一掃し始めました。トラベラー協会はカーリル星系にアンバーゾーン指定を行い、カーリル星系のUWPもA0009AE-Eに変更しています。
 以前の合州国では加盟星系がそれぞれ独自の軍隊を保有し、共通の装備と訓練基準を持っていましたが、ダルドリーム政権成立後は全ての軍事力が国軍の「合州国平和維持軍(Assembly Peacekeepers)」に集められ、中央の直接指揮下に置かれることになりました。そして平和維持軍は、国内外を問わず軍事介入を行っています。

カレドン・ベンチャーズ社 Caledon Ventures
 1105年以降、同社は積極的に商圏を開拓していきました。1108年にガージパジェ(1124)の知的種族ジアージェと(※1114年にはクトリング族とも)交易協定を結び、1109年にはトーレァ(1226)の先住知的種族ポリフェメーとも接触しました。そのトーレァの北大陸には1113年に恒久的な交易拠点を設立していますが、翌年、その星の貿易を長く独占してきていたアスラン商社ハテューウィの報復に遭って破壊されました。
 また、1113年末には経営が傾いていたSDTC社を吸収合併し、レジャップール(1218)の統治権とジャイヘの輸出販売権を得ています。

クトリング族 K'Tring
 ガージパジェ(1124)に住む人類で、「クトリング人」とも呼ばれますが、彼らはイルサラ人(ドレシルサー人)の一民族に過ぎません。しかし歴史の皮肉で、今や人口では母星よりも栄えているのです(※母星ドレシルサーの人口が900万人なのに対し、クトリング族は推計3億6000万人)。
 -897年、一隻の軍艦がガージパジェ東大陸の山岳に不時着しました。乗組員はトリングという民族が主体のイルサラ人兵士で、交戦後のミスジャンプでこの星に流れ着いたのです。艦を修復する技術が失われて故郷への帰還を断念した彼らでしたが、定住するには十分な知識は残っており、男女比の面でも人口拡大に支障はありませんでした(※イルサラ人は男女同権社会のため、女性軍人も多く乗り込んでいたのです)。
 やがてクトリングと呼ばれるようになった彼らは、無慈悲で軍国主義的な文明を築き、軟弱で下等とみなした東大陸のジアージェ都市国家を1000年以上かけて征服し尽くしました。しかしジアージェより上とはいえ彼らの当時の技術力では、ガージパジェの広大な海を横断して西大陸に攻め込むことはできませんでした。ただし、一部のクトリング族(主に犯罪者や逃亡者)は海を渡って、西大陸のジアージェ都市に隔離街(ゲットー)を構築しています。
 近年、ガージパジェにはアスランやカレドンの商人が訪れていますが、クトリングには商売相手としての魅力が乏しく、これまで外世界との接触は全くありませんでした。しかし、宇宙に目を向けたジアージェに呼応するように彼らも外世界の勢力(ソロマニやアスラン)との接触を試みていると囁かれています。
(※ガージパジェがTL4評価なのは、1032年頃に行われた帝国偵察局による第二次大探査でクトリング文明を見落としたから…という定説は流石に無理があります。当時はジアージェ文明と大差なかったが70年後に軍事技術がTL6に達した、とする方がまだ納得できます)

サイエ Saie
母星:シーン(1705)かヴィチー(2005)
 約3700年前、破滅的な内戦の末に痕跡すら残さず絶滅したと思われている知的種族ですが、実はツァネシ(1711)のヰン=ツァイこそがサイエの末裔だったのです。加えて、グレンシエル(1912)に不時着したサイエは、アネクトール山の風霊獣(Windstalkers)に「退化」して今も生き延びています。

ジャイヘ Jaihe
 レジャップール(1218)原産のジャイヘ(現地語でジャイヘブレク(Jaiheblek))は、カレドン公王国や帝国で人気の温かい飲み物に加工される(※葉や実を焙煎するのではなく、茎の節から成分を抽出するようです)植物です。846年からSDTC社によって現地からの輸出が始まったジャイヘですが、1108年からは現地の混乱によって入手が難しくなっています(※輸出が再開されるのは1114年以降です)。

ダンシニー連合 Confederation of Duncinae
 1108年にトーマス・バーナム提督(Admiral Thomas Birnham)を中心として海軍の一部が決起した、いわゆる「08年反乱(Rebellion of '08)」が発生しましたが、クーデター政権は短命に終わり、失脚した提督は流刑星コベントリー(1723)に1110年に収監されました。それ以降の同星系では、監視所の戦闘機や小艇の発着能力が増強され、人員も増やされるなど、保安体制が強化されています。バーナム提督の奪還計画の噂はいくつもあり、それらが結実しないようにするためです。
 「マクベス号事件」後の連合は、1114年038日に行われた連合評議会議長(President of the Confederacy Council)選挙で強硬派のロジャー・ヴェイン前マールハイム大使(Roger Vane, the former ambassador to Marlheim)が当選したため、大公国との緊張が増しています。

トーレァ Htalrea 1226 E767610-1
 何らかの理由により、アスラン氏族による封鎖は1109年に解かれました。

フオスキーキール H'Oskhikhil
母星:「ストーム」こと300-207(1404)
 彼らの母星である、分類番号「300-207」星系にはこれまで生命はいないと思われていました。しかし実は、帝国偵察局は偏芯軌道にある捕獲惑星を見落としていたのです。近年、カレドン・ベンチャーズ社の商船がアンジェラ(1406)で難破していた未知の異星人の亜光速船を発見し、その記録から辿り着いた「嵐の惑星(ストーム)」で知的種族フオスキーキールと接触しました。
 彼らは全高0.5m、横幅1.5mの円盤状の体をしていて、母星の偏心軌道は、彼らの生涯を2つの段階に大きく分けました。知性と技術を持った成体は、繁殖した後、食欲だけで動く幼体に捕食されるのです。これにより比較的最近まで、この種族は永続的な技術社会を発展させることができませんでした。成体は文化と技術を次の世代に伝えるために、守りを固めた避難住居を建設しています。

ポリフェメー Polyphemes
母星:トーレァ(1226)
 ポリフェメーは原始的な狩猟採集社会を形成しています。飛び出た耳と大きな一つ目、屈強な体を持つ、大きな体格の二足歩行種族です。彼らはごく最近になって(人類と)接触したので、まだ詳しいことはわかっていません。

マクベス号事件 MacBeth Affair
 1113年187日にマールハイム大公国領のミラク(1127)で発生した暴動の後、ダンシニー連合籍の商船マクベス号の乗組員が、関税法違反、無許可通商、大衆扇動、大公国治安維持局員(Ducal Security officers)への暴行など17件の容疑で逮捕されました。
 大公国当局の公式見解では、マクベス号の乗組員が現地法に反して暴動を誘発したとしています。一方で企業側は、暴動がマクベス号への嫌がらせに対する現地市民の反発から起きたもの、とする証拠があると主張しています。

ルウシャカアン Luushakaan 2021 D541513-5
 実はスターンメタルを襲ったのはデルガドに偽装した傭兵で、その雇用主はダカアル社です。同社は巨大企業同士の対立を煽ることでルウシャカアンにおけるスターンメタルの独占を崩し、他の収益性の高い市場への足掛かりにしたいと考えているのです。

レジャップール Rejhappur 1218 B651613-A
 1105年、SDTC社はパーシバル・ジェイミソン卿(Sir Percival Jameison)をレジャップールの新支社長として送り込みました。傲慢で頑固で自惚屋でもあるジェイミソン卿は、流血をも辞さずハップラーニ人を軍事力で従わせようと、遊牧民に対する残忍な鎮圧作戦を実行しました。しかし戦略家としては素人だったジェイミソン卿のこのやり方は裏目に出て余計に遊牧民らの怒りを買い、1108年、ジェイミソン卿は視察先のパジナウィ入植地で遊牧民の襲撃を受け、彼を含め入植地の外世界人全員が殺害されました。
 この事件を機にハップラーニ人による反乱が惑星全体にすぐに広がりましたが、最終的にカレドン公王国の政治介入によって収まりました。反乱はSDTCの経営に大打撃を与え、同社はレジャップールを支配する力を失いました。その後、SDTCを吸収合併したカレドン・ベンチャーズ社がこの星の新たな統治者となりました。

宙域散歩(23.5) リーヴァーズ・ディープ宙域(国家・企業・団体)(2025年改訂)

 以下の文章は「極力公式資料に基づく最新の1105年設定」を解説したものです。「非公式設定をも取り込んだ古い1115年設定」こちらです。

【国家(主要国)】
カーリル合州国 Carrillian Assembly
総人口:141億人
公用語:アングリック(リム方言)
 リーヴァーズ・ディープ宙域で最も技術的に進んだこの独立国の起源は、517年まで遡ります。当時、ドレシルサーとファールナーの星々の領土紛争が宙域全体を不安定化させ、フトホァーの和約は崩壊の瀬戸際に立たされていました。アスランの後援を受けた第三帝国が和平仲介(と威圧)に動き、519年に中立の小惑星星系カーリル(2330)で開かれた一連の会談によって、経済連携と共同防衛のための単一国家建設の合意に至りました。新国家の首都にはこの調印の地、カーリルが選ばれました。
 その後合州国には楽観的で平等主義な気風が定着し、交易地域の拡大とともに加盟星系を増やし、そして国内全体の技術水準を劇的に進歩させました。800年には緩衝地帯で最先端のTL13に到達し、周辺星系に対する圧倒的優位を得ました。
 しかし1000年になると、合州国の急成長には陰りが見えるようになりました。この頃、カーリルのほとんどの会社は一握りの大企業に収斂し、これは確かに市場の効率化と経済成長に寄与はしましたが、一方で富の偏在によって社会不安を増幅させました。対外的には、ソロマニ・リム戦争が引き金となって第三帝国かソロマニ連合が合州国の主権を脅かすのではないかと思われました。これらの状況は、安定と現状維持を重視する愛国党(Assemblist party)と、経済軍事の両面で周辺星系を取り込もうとする拡大党(Expansionist party)の対立を先鋭化させていきます。
 1102年の総選挙は、経済の低迷、政治腐敗、相次ぐ労働争議が争点となり、検事出身で若く颯爽としたイーノ・ダルドリーム(Eno Daldreem)が率いる野党拡大党が僅差で勝利して悲願の政権交代を実現しました。拡大党新政権はこの機を逃さず、愛国党の復権を阻む法案を次々と可決していき、1103年と1104年の憲法改正で国家元首たる「大法官(High Justice)」への権限集中を加速させました。これらの改革には多くの加盟星系から非難が寄せられましたが、ダルドリーム大法官は意に介していません。加えて政権は帝国やソロマニ連合の脅威に対抗するため、イェホソー氏族や29選(※おそらくイェーリャルイオー)氏族に接近しています。

イスライアト支配圏 Islaiat Dominate
総人口:1450億人
公用語:イスライ語
 リーヴァーズ・ディープ宙域とエァリーオシーゥ宙域の狭間に広がる人類系国家です。首都イスライアト(0221)はテラに似て過ごしやすい世界であり、恒星間戦争初期に地球人によって入植されました。その後イスライアト入植地は近隣星系にも拡大を続けましたが、暗黒時代が訪れると彼らは衰退する技術を守るために周囲から収奪を始め、-1000年には数星系を支配する立派な《略奪者国家》となっていました。
 ところがアスランのロァホール氏族がディープに進出し始めると、イスライアトは次第に守勢に立たされるようになりました。-900年頃にトローヱァエァウィ氏族の家来となることで彼らは対抗しましたが、これによってイスライアト社会は大きく変容し、人類とアスランの伝統が融合した全く新しい文化を花開かせました。特に芸術や建築分野は見事な文化的偉業として名高いです。またこの頃に「アリエル教(Arielism)」が創始され、イスライアトの人々に広まりました。
 その後、アスランの間で文化粛清(-50年~50年)が起こるとロァホール氏族は逆境に立たされて弱体化し、フトホァーの和約(380年)の頃になるとイスライアトはロァホール氏族に対して領土の割譲と人類の家来の解放を認めさせるまでになりました。このような経緯もあり、イスライアト領のほとんどの星系にはアスラン風の名が付いています。
 前述の通りイスライアトはトローヱァエァウィ氏族と強い結びつきを持ちますが、他のアスラン氏族とも友好的です。一方で他の人類国家には宗教観の違いから若干の警戒心があります。
 首都イスライアトこそ先進技術世界ですが、他の星はアリエル教の影響で前星間技術に留め置かれています(唯一の工業世界ですらTL7です)。国内には小規模なTL13艦隊が配備されていますが、主な任務は海賊とイホテイ対策です。陸軍は現地の技術で運用されるため千差万別ですが、要人警護のためにTL14の精鋭部隊を持っています。
 イスライアトの終身政治指導者であるイスライアトコー(Islaiatko)(※コーとはアスランの言葉で「長」を意味します)は貴族らによって選ばれます。現職のアザール10世(Azar X)は1094年に就任し、国家の近代化を進めています。一方で精神的指導者である大神官ラジン(High Priest Razin)は、(イスライアト建築の最高傑作として知られる)マイジャーラ大寺院にあって政治への干渉は控えめですが、保守的なラジンと改革者アザールの間には大きな軋轢があると言われています。
(※元来ここは群小種族ヰスライ(Yislai)の国とされていましたが、長年ヰスライの設定が作られなかったことで人類国家になったようです。なお飛び抜けて人口が多いように見えますが、イスライアト(900億人)とマイジャーラ(500億人)でほとんどです)

カレドン公王国 Principality of Caledon
総人口:300億人
公用語:アングリック(カレドン訛り)
 カレドンとスコティアン・ディープの両星域の大部分を占める、リーヴァーズ・ディープ宙域最大の独立国です。直轄領に加えて4つの属領星系と、「ダグラス大公国」も(事実上の)傘下に持ちます。隣国の第三帝国とは緊密な関係を持ち、しばしば「商業王国」と形容されます。建国以来、2度の内戦期を除けば比較的安定した国です。
 現在の公王国を構成する地域は、恒星間戦争末期の(主に西欧系の)地球人入植地を起源とします。当時の地球連合に不満と不安を抱えていた人々は、著名な銀行家チャールズ・スチュアート・スコット(Charles Stuart Scott)の資金提供を受けて人類未踏の新天地への移民団を組織し、カレドン(1815)やその周辺に入植しました。その後長らく未知の環境との苦闘が続き、やがて長い夜(暗黒時代)が訪れるとジャンプ技術は失われました。
 -200年頃、カレドンを訪れたダイベイのある小国の貿易商からジャンプドライブを入手すると、いわゆる《略奪者》たちの無法を抑止するため、-102年にジェミスン・ダンダス(Jamieson Dundas)によってカレドン公王国は建国されました。建国直後、公王国はイルサラ帝国の侵攻に遭ってエァ星域を失いましたが、スコティアン・ディープ星域の中核への攻撃は跳ね返しました。その後、250年代に公王国はイルサラ支配下の星系での反乱を支援するなど反攻に転じ、第三帝国との共同戦線もあって、最終的にイルサラ帝国を滅亡に追いやりました。
 309年から328年にかけて公王国は第一次内戦に見舞われ、この影響でダンシニー(1624)などが公王国から離脱してダンシニー連合を結成しました。800年代には探検と拡張の新時代の幕が上がり、公王国は商業利益を大幅に拡大しました。
 1024年、コリン公王(Prince Colin)が世継ぎなく死去したことで「王朝危機(第二次公王国内戦)」となり、クラヴァース大男爵マクスウェル提督(Admiral Earl Maxwell of Claverse)とエドワード・キャンベル卿(Edward, Lord Campbell)が王位を争いました。マクスウェル卿は有力な家柄である一方、キャンベル卿は身分は低くとも財界の支持を受けていました。これは、かのダンバートンの戦いに勝利し、マクスウェル卿を国境外に追放するのに十分でした。翌年004日、エドワードはカレドンの公王として戴冠しました。
 現在のカレドン公王国は、貴族院(上院)・代議院(下院)・大元老院の三院制議会の上に国家元首として公王(Prince)を置く立憲君主国です。公王国のほとんどの星系は外交・防衛・貿易規制を国に委ねつつ、自治を大いに保っています。現在はエドワードの孫で名君との評判高いキース(Prince Keath, Lord Campbell)が王位に就いていて、その嫡男のフレイザー(Fraser)は公王国海軍に中佐として務めています。
 公王に忠誠を誓い、自領を治めるのが世襲の貴族たちです。称号は下から騎士(Knight)、領主(Lord)、辺境伯(Margrave)、子爵(Viscount)、伯爵(Count)、大男爵(Earl)となっていて、公王は絶対君主ではなく国を代表する貴族として(憲法の定める範囲内で)君臨しています。カレドンは古めかしい封建社会ではありますが、爵位は平民にとって手が届かないものではありません。王室への卓越した貢献が認められれば、誰でも貴族に採り立てられる可能性はあるのです。
 公王国は第三帝国やダンシニー連合とは友好的な関係を築いていますが、ソロマニ連合に対しては警戒心を抱いています。また、公王国とカーリルの企業同士による熾烈な競争で両国はますます対立を深めていて、キース公王はカーリル合州国の政変を注視しています。
 カレドン政府には王立郵便公社(Royal Mail Service)やカレドン研究所(Caledon Research Institute)や公王国偵察局(Principality Scout Service)のように、第三帝国を手本にした組織がいくつも存在します。同様に、カレドン国防軍(Caledonian Defence Forces)は陸軍・海軍・海兵隊の三軍制が採用されています。基本的にTL12(精鋭部隊はTL13)で編成される国防軍は帝国軍と共同訓練を実施し、同じ戦闘教義を採用しています。和約によって緩衝地帯の内側への軍艦の直接売却は厳しく制限されていますが、帝国とはジャンプ-3の旧式艦の設計図を共有していて、国防軍「独自」の艦艇を建造することができます。
 近年、公王国は貴族同士の派閥争いに揺れています。現王朝が下剋上によって誕生したという前例もあり、貴族たちはより安定した権力基盤を求め、そして対立派閥同士の抗争も目立つようになってきました。小規模な反乱や私兵の増強、政治的謀略は明らかに増加傾向にあり、そう遠くない将来に新たな危機を迎えるかもしれません。
(※Earlの一般的な訳語は「伯爵」ですが、カレドンには同じく「伯爵」と訳されるCountもあるため、Earlの元来の意味である「Baronの中のBaron」から「大男爵」を造語しました)

和諧同盟 Union of Harmony
総人口:330億人(アスラン6割、ウレーン極少数)
公用語:トロールなど様々(おそらく中国語も)
 リーヴァーズ・ディープ宙域とダーク・ネビュラ宙域の境界上にある、3星域にまたがる独立国です。この国には人類とアスラン、そしてウレーンが住んでいます。国民の多数派はアスランですが、政治の実権は人類が握っているため、周辺からは人類国家とみなされています。
 同盟の起源は、恒星間戦争時代に(主に華人系の)地球人がファースト・ロー(1037)に建設した入植地にまで遡ります。またウレーンは、-1400年頃にアスランと接触して協力関係を築きました。そしてアスラン国境戦争が勃発すると、人類は「天的聯盟(Celestial League)」の旗の下に集って抵抗していましたが、フトホァーの和約の締結によってこの近辺が緩衝地帯になると、明確な「敵」を失った聯盟は徐々に内部分裂を起こして崩壊していきました。
 時は流れてソロマニ自治区が設置されると、ソロマニ人は交易と「伝道」を兼ねて緩衝地帯の人類星系を訪れるようになりましたが、それは旧天的聯盟やウレーンが(人類と)住む星々も例外ではありませんでした。結果的にソロマニ主義は浸透しませんでしたが、やがてソロマニ連合との交易関係を深めるべく人類が主体となって再結集の機運が高まり、856年に現在の「和諧同盟」が誕生しました。同盟は複数首都制を採用し、1つは旧聯盟の首都だったギュスターヴ(0737)に、もう1つはウレーンの母星であるウル(ダーク・ネビュラ宙域 0603)に置かれました。
 同盟は領土規模の割に人口が少なく(加えて総人口の約4割が宇宙港のない1星系に住むという歪さが拍車をかけています)、産業基盤が弱いこともあって近隣世界との貿易に依存していますが、距離と人口比の事情で、ソロマニ系企業よりもアスラン系企業の方が優勢に活動しているのが現実です。一方でソロマニ寄りの外交方針によって、アスラン氏族との間に若干の緊張と抑止力を生んでいます。
(※Celestial Leagueは現設定ではCelestime Leagueとなっていますが、意図と意味が不明なので旧設定のままにしています)


【国家(中小国)】
カーター技術立国 Carter Technocracy
総人口:43億人
公用語:アングリック(エンリス訛り)
 マーフィー星団のドリンサール側に位置する、カーター(1740)とその植民地ジェファーソン(1840)・グリフィン(1839)で833年に建国された小国です。ここの経済は、首都カーターから8パーセク圏内の人類やアスランに、この近辺では最先端のTL11製品(宇宙船や兵器を含む)を輸出することで成り立っています。
 建前上は代議制民主主義国ですが、工業家党(Industrialist Party)の一党支配が続いています。党は主要企業全ての取締役会に加わり、行政機能も完全に支配しています。1088年から政権を握る、工業家党党首であり技術立国書記長のドーラン・トレント(Doran Trent)は広く人気を集めており、元企業幹部の経歴を活かして政府のあらゆる舵取りを厳格に制御し、支持者には様々な「便宜」を図っています。
 カーターは何世紀にも渡ってそれなりの繁栄と独立を享受していましたが、現政権はソロマニ連合やカーリル合州国の影響力増大を危惧しています。小規模ながら良く訓練された陸海軍を保有しており、海賊行為や近隣星系からの侵入を防ぐには十分です。
(※「エンリス」がどこなのか、そもそも地名なのかも不明です)

ダンシニー連合 Confederation of Duncinae
総人口:1.5億人
公用語:アングリック(カレドン訛り)
 リーヴァーズ・ディープ宙域中央部にある小さな独立国です。人口は少なく、初期星間技術しか持ちませんが、5つの農業世界と3つの富裕世界を持ちます。ちなみに、隣接するコベントリー(1723)は正式な領土ではありませんが、760年から連合の流刑星とされています。
 現在の連合領の多くの星々は第二帝国時代に入植され、暗黒時代に技術を失ったものの、-200年頃にカレドン系の貿易商と再接触して技術を取り戻しました。帝国暦100年代にはカレドン侵略を目指すイルサラ帝国の支配下に置かれてしまいましたが、257年にダンシニー(1624)、ラナルド(1526)、フルトン(1524)の住民はカレドンの支援を受けて反乱を起こしました。イルサラ帝国の滅亡後、これらの星は公王国に加わったものの、第一次公王国内戦(309年~328年)の発生で避難民が流入し、それを機にダンシニー連合が分離独立しました(※避難民を遮るためでなく、避難民らが中立を宣言するための独立と思われます)。
 連合は「母国」カレドンとあらゆる面で双方に利益のある密接な関係を構築し、第三帝国とも属領経由の農産物輸出等で交流を深めていますが、一方で、隣のマールハイム大公国との緊張は徐々に高まっています。
 ダンシニー連合は、星系自治権と個人の自由が(公共の福祉に反しない限り)非常に重んじられる緩やかな繋がりの星間国家として統治されています。技術と能力の制約でジャンプ-2宇宙船の建造しかできませんが、海賊対策の小艦隊を配備しています。

マールハイム大公国 Grand Duchy of Marlheim
総人口:85億人
公用語:プラット語(略奪者俗語語派)
 8つの世界を支配する拡大主義・全体主義国家で、最後の《略奪者》の一人であるカタリーナ・タン提督(Admiral Katarine Tang)によって-347年に建国されました。当時彼女は消耗した艦隊が身を隠すのに丁度いい根拠地を欲していましたが、暗黒時代の荒波に疲弊したマールハイム(1230)の住民が強力な守護者を求めているのを知ると、マールハイムの「救世主」として初代大公に即位しました。《略奪者》としての残忍で冷酷な悪名とは打って変わって、彼女は大規模な防衛力を整備して文明文化を守り、統治者としての名声を高めていきました。カタリーナ大公の後継者たちは《略奪者》やアスランやイルサラ人の襲撃を何度も撃退し、フトホァーの和約の際には(調印当事者ではないものの)第三帝国との間で外交交渉に奔走しました。この功績で大公国は繁栄する帝国に迎え入れられるものと期待していましたが、実際には緩衝地帯に「見捨てられる」格好となり、大いに失望しました。
 800年代に入るとようやくTL11に回復し、ジャンプ-2の小艦隊を編成できるようになりました。すると大公国は、第三帝国・アスラン・ソロマニ連合といった列強から脆弱な土着文化を「保護」するという名目で、近隣星系に積極的に進出していきました。まずドラン(1129)を植民地化し、セント・デニス(1031)を征服しました。831年には高人口世界ペンダン(1231)に侵攻しましたが、技術の優越で損害こそ少なかったものの併合までには時間を要しました。拡大が再開されたのは1000年代になってからで、テオドーラ(1030)、ファスク(1028)、ミラク(1127)を相次いで併合し、1091年にはレストロウ(0926)が大公国への加盟を申請しました。
 現在のフェリクス大公(Grand Duke Felix)はさらなる領土拡張に強い関心を持ってはいますが、今は併合星系の抵抗勢力(特にテオドーラとミラクは未だに軍政下にあります)を抑え込むことを優先しています。また緊張の度合いを増しているダンシニー連合との関係も今後の課題です。
 なお、全体主義国のマールハイムが「文化の守護者」であるのは建前ではなく、意外にも芸術や出版分野を建国以来手厚く保護しています。
(※ちなみにペンダン星系は-1950年頃に入植され、-1010年にはアスラン(のおそらくイホテイ)の侵入を退けた、という故事があります)

ランヤード入植地 Lanyard Colonies
人口:1000万人
公用語:アングリック(リム方言)
 元々ここは暗黒時代にアスランが開拓していましたが、フトホァーの和約によって放棄されました。その後、995年頃にソロマニ・リム戦争でダイベイから逃れてきたソロマニ人が入植し、それぞれの星には最初の知事の名が付けられています。
 当初ソロマニ連合は入植地の農水産物の品質を高く評価し、財政・技術の両面で支援を行いました。1008年までは各知事に統治は任されていましたが、連合はランヤードを宙域進出の足掛かりに考え、干渉を強めました。しかしダーク・ネビュラ宙域方面での苦戦から緩衝地帯への関心が冷め、1096年以降はランヤードへの干渉は形だけとなったようです。


【その他政府】(※UWPの国籍コードが与えられていない政体)
グラリン集権 Gralyn Assemblage
人口:1億人(ドロイン5%)
公用語:アングリック(グラリン訛り)
 ドリンサール・ループにあるグラリン(1735)とその衛星オスコーオポィ、そして直轄領ボタニー・ベイ(1734)からなる政府です。加えて、農業世界アイヒー(1634)を治めるアイヒー開発公社(Aikhiy Development Trust)を、ヴェニス(1534)と共に営んでいます。
 -1893年から人類はオスコーオポィのドロインと交流するためにそこに定住しましたが、やがて暗黒時代になると、自分たちの存在が交易利潤を生まず貴重な資源に負荷をかけるだけとなったのでグラリンに移住しました。両者は共同で《略奪者》やアスランに対する星系防衛網を構築し、暗黒時代を無事に乗り切りました(-250年には自力でジャンプ技術を回復させていたそうです)。ソロマニ・リム戦争後には、運営企業の撤退で進退窮まったボタニー・ベイを統治下に治めています。
 現在のグラリンはその好立地を活かし、ドリンサール・ループを通じた交易で栄えています(密輸業者も同じ航路を利用していますが)。
(※ちなみに、アスラン世界ハテァリェ(1733)にある人類入植地の一つはグラリンからによるものです)

ダグラス大公国 Grand Duchy of Douglass
 ダグラス(1617)およびペントランド(1616)・ラナルク(1518)は「ダグラス大公国」を名乗っていますが、カレドン公王国と緊密な政治的・経済的繋がりを持っています。つまりは、公王国の直轄領よりも自治権が少々強いだけの半独立国に過ぎません。事実、公王国海軍の3つの造船所の1つはダグラスにあります。
(※現行のT5SSでは国籍コードがカレドンと同一になっているのはともかく、ラナルクが公王国領となっている誤植が…誤植とは言い切れないぐらいに、両国は一体化されています)

カーン世界連盟 Khan World League
人口:30億人
公用語:ブラス語(略奪者俗語語派)
 《略奪者国家》の生き残りであるカーン(0817)は、マリー(0716)、テンボ(0717)、サイン(0816)の3星系を厳しく統治していますが、1031年にイェディダー(0616)が離反したことでAクラス宇宙港を失い、艦の新造はおろか維持補修にすら苦労しているようです。

コラス統治領 Kolan Hegemony
人口:4億人
公用語:アングリック
 コラス(2313)、クラット(2315)、ロック(2214)の3星系からなるこの「統治領」の法的地位は曖昧で、星図にどう記すかは制作者の考え方次第です。多くの星図では単なる中立星系で、時折第三帝国の領土や属領とするものもあります。そして当然、コラスでは「独立国」です。
 この問題はアスラン国境戦争の後期まで遡ります。当時のコラスは6つの世界を治める《略奪者国家》でしたが、帝国はコラスを宙域進出の格好の足掛かりとして交渉を持ちかけ、コラス領を帝国に併合するが主権を残す、という合意に至りました。しかし時が立つにつれてガッシュ(2216)がコラスから独立し、ジェリム(2416)とメル(2414)も帝国の工作で吸収されました。次はロックの番だとの噂も絶えませんが、それでもコラスは主権を振りかざし、伝統に従って領地を治めています。

清浄教区 Purity Union
人口:80億人
公用語:アングリック
 ピューリティ(2440)とその属領パーガトリー(2239)は、清浄教が治める「教区」とされています。厳格な祭政一致社会ゆえにこれらの星系はアンバーゾーンに指定され、ソロマニ連合による併合の試みもうまくいっていません。
 教団は女性の預言者たちに導かれ、男性は不浄な二級市民扱いです。軍隊に入れるのも女性のみですが、その練度は高く、教団に絶対的に忠実です。
(※狂的な信仰心の裏には、不信心者は極寒の「煉獄(パーガトリー)」に送られてしまう、というのもあるようです)


【アスラン氏族】
イェホソー氏族 Yehaso clan
本拠地:ロァオ(0237)
 -1000年頃にイェーリャルイオー氏族から独立した氏族です(が、今も友好関係にあります)。ロァオ星系のエァロー地方を本拠にしてフリケ(0530)とヒシーホ(0232)を治め、トーレァ(1226)も事実上の属領としています。

トローヱァエァウィ氏族 Tralyeaeawi clan
本拠地:クーウィーウォーショー(フロッホイ宙域 3222)
 アスラン4大氏族の一角を占め、巨大企業レァスティーラオと関係が深く、広大な領地と全氏族の中でも最大の人口を保有しています。その歴史は古く、かの「最初のトラウフー(-2083年)」や「フトホァーの和約(380年)」にも関わっています。そして、ソロマニ・リム宙域に初めて到達し、ムアン・グウィ(ソロマニ・リム宙域 1717)やテラ(同 1827)に至る貿易航路を最初に確立した氏族でもあります。
 この氏族は人類や群小種族の登用に積極的で、「蛮族」を名誉あるフテイレに導く宣教師のような存在を抱えています。また寛容的な文化を持ち、形式に囚われず、上下関係も厳しくないため人類とは容易に付き合えますが、保守的な氏族からは大氏族に相応しくないと異端視されています。歴史的にイェーリャルイオー氏族とは常に対立していて、614年から693年にかけて氏族間大戦に発展したこともあります。

フロウオーアォ氏族 Hrawoao Clan
本拠地:オーヘイセ(エァリーオシーゥ宙域 1222)
 勇気と決意を重んじるフロウオーアォ氏族は、アスランの中でも最精鋭の地上部隊を擁しています。古代クーシューでフロスーオ氏族の分家として始まったフロウオーアォ氏族は、アスラン世界大戦で傑出した活躍を見せ、その功績で「最初のトラウフー」に名を連ねました。その後もフロスーオ氏族の忠実な家来としてアスラン国境戦争を戦い抜き、更に大きな名誉を得ました。
 フロスーオ氏族がフトホァーの和約を拒んだ際は、フロウオーアォは「第三帝国の正当なる勝利を認めぬは甚だ不名誉なり」と主君を糾弾し、フロスーオに代わって4大氏族の一員として和約に調印しました。そして彼らはフロスーオ氏族と永久に絶縁し、より強大なイェーリャルイオー氏族の陣営に加わりました。
 現在序列13位のフロウオーアォ氏族は、リーヴァーズ・ディープ宙域の国境沿いの多くの世界を含めてアスラン領各地に広大な領地を支配しており、クーシューでは歴史ある五大都市の一つを治めています。

フロスーオ氏族 Hrasua Clan
本拠地:オゥハ(ウオロァトヘ宙域 0333)
 アスランの宇宙進出前から続く軍産複合体ホァイロァー社を持ち、複数の傭兵部隊を抱えている、序列5位の好戦的な氏族です。
 フロスーオ氏族は「最初のトラウフー」に名を連ね、アスラン国境戦争では人類星系への数々の攻撃の指揮を執りました。一時は序列2位にまで至りましたが、文化粛清の際に執拗な攻撃を受けて衰退し、フトホァーの和約を拒んだことで最大の家来であったフロウオーアォ氏族に離反されました。534年には跡目争いでエァハティホー氏族と分裂しましたが、29選の地位は死守し、1015年に和解して再統合を果たしています(その名残りで裂溝の彼方(トランスリフト)では今でもエァハティホーと呼ばれています)。
 フロスーオ氏族領はアスラン圏全域に存在しますが、主にウオロァトヘ宙域やその周辺で影響力を持っています。
(※ホァイロァー社は一時はアスラン第3の巨大企業でしたが、氏族分裂の際にウヤーロァエァ社と分社化されました。再統合後もそのままでしたが、氏族は1115年を目処に両社を合併させ、新生ウヤーロァエァは再び巨大企業に返り咲くことが期待されています)

ロァホール氏族 Loakhtarl clan
本拠地:イレッホッケ(エァリーオシーゥ宙域 2828)
 リーヴァーズ・ディープ宙域史に大きな影響を与えたアスラン氏族ですが、今は最盛期の半分以下の勢力しかありません。
 古のクーシュー(ダーク・ネビュラ宙域 1226)では野心的な小氏族に過ぎませんでしたが、宇宙時代になると他の氏族や人類との競争を避けてエァリーオシーゥ宙域の奥深くに移住しました。そこで数世紀をかけて29選入りを伺うほどの勢力にまで成長しましたが、やがてリーヴァーズ・ディープ宙域での企業活動を隠れ蓑にして他氏族の進出を妨害していた「アスランらしからぬ振る舞い」を咎められ、最終的にはディープ宙域からの完全撤退を余儀なくされました。


【帝国系巨大企業】
 フトホァーの和約により、緩衝地帯において締結国と繋がりの深い企業の活動には大きな制約がかけられています。しかし周囲を「外国」に囲まれている帝国にとって、緩衝地帯は今や貴重な未開拓市場であり、新たな資源の眠る宝の山であるため、この100年ほど各社は試行錯誤しながら進出を探っています。

インステラアームズ Instellarms, LIC
宙域本社:セント・ジョージ(2616)
 兵器産業の最大手であるインステラアームズは他の巨大企業と異なり、皇室が直接株式を保有していないので、フトホァーの和約に記された制限条項を回避して緩衝地帯で活動することができます。加えて、ディープ宙域では軍事装備品の需要は高いため、最も活発に商売をしている帝国企業だと言えるでしょう。ディープ宙域の帝国領内のほとんどのAクラス宇宙港には同社の展示・商談施設が置かれ、独立星系の政府や企業の代表はおろか、アスラン氏族も顧客として訪れています。一方で同社自慢の傭兵部隊は、すでにアスラン傭兵で飽和している市場に依然として食い込めていません。

オルタレ・エ・シェ Hortelez et Cie, LIC
宙域本社:ワリニル(ダイベイ宙域 0507)
 金融の巨人であるオルタレ社は、星系政府への融資や大規模開発計画の受注の他に、大手保険会社としても知られています。また同社はディアブロ(2423)の軌道港を所有・運営しています。

GSbAG Geschichtkreis Sternschiffbau AG
宙域本社:ワリニル(ダイベイ宙域 0507)
 宇宙船製造を主とする巨大企業GSbAGは、帝国海軍艦船の主要な供給元です。リーヴァーズ・ディープ宙域での同社の活動は限定的で、成功失敗もまちまちです。セント・ジョージ(2616)、ジェリム(2416)、モーブ(3232)の造船所は順調な一方、1090年代にはブリン(2417)の革命によって事業撤退する羽目にもなりました(参照:ブリン(星系))。

SuSAG Schunamann und Sohn AG, LIC
宙域本社:セント・ジョージ(2616)
 化学・医薬・バイオ技術製品の巨大企業であるSuSAGの施設は、数々の「悪い噂」によって抗議・破壊活動の標的となっており、同社は大規模かつ装備の整った警備部隊を抱えています。
 この宙域ではさほど事業展開していないものの、緩衝地帯の星々を天然資源の新しい供給源として、製品の潜在的市場として慎重に見定めています。例えば、ダケン(1830)ではゴールドサンド(テラ原産のサンゴに似た砂漠生物)を調査しています。
(※発展途上星系に向けてクローン労働者の販売もやっているらしいですけど…?)

スターンメタル・ホライズン Sternmetal Horizons, LIC
地域本部:セント・ジョージ(2616)
 鉱業や製造業に強みを持つスターンメタルは、地上車の動力源から発電所まであらゆる発電装置を手掛けており、同時に帝国最大の食品合成機械の製造元です。
 同社はソロマニ・リム戦争が停戦してからずっと、緩衝地帯内での活動を模索してきました。近年ではマクベス(1717)のダイヤモンド鉱山の採掘権を取得し、カレドンの採掘機械企業を買収しました。また、イヌラ(2523)を領有し、ルウシャカアン(2021)を永久租借地としています。

デルガド貿易 Delgado Trading, LIC
宙域本社:セント・ジョージ(2616)
 リム戦争によって巨大企業にまで飛躍したデルガドは、軍装品の製造販売から鉱物の採掘精錬、出版など様々な事業で成功を収めています。
 同社は最終的なアスラン市場への参入を睨んで緩衝地帯への進出を開始し、カレドン系企業との競争を始めました。デルガドはカサンドラ(1924)、タシュラカール(1927)、ディアブロ(2423)に拠点を置き、ベッツェル(2813)を社有地化しています。

ナアシルカ Naasirka
 コンピュータなど電子機器に強い巨大企業であるナアシルカは、リーヴァーズ・ディープ宙域の帝国領内で製品販売を試みましたが、意外な抵抗に遭いました(※詳細は不明ですが、ブリン(2417)でのことを指しているのかもしれません)。

マキドカルン Makhidkarun
宙域本社:ワリニル(ダイベイ宙域 0507)
 通信機器やロボット、貴重品や娯楽関連の巨大企業であるマキドカルンですらディープ宙域では存在感が薄いのですが、それでも同社は緩衝地帯に社員を派遣し、古美術市場を注視しています。特に古代アスランの物は高値で取引されるのですが、アスランは文化財の(密売を含めた)売買には敏感で、憤りを感じています。近年では滅びたサイエ文明の遺物を捜索対象に加えており、カレドン星域で活動を行っています。
 そして同社は農業星系カアニイル(2223)の租借権を獲得しています。

LSP Ling-Standard Products
 リム戦争後、ディープ宙域における活動を著しく拡大させているLSPは、製造業・鉱業を中心とした多角経営で知られる巨大企業です。同社は賄賂などで地元有力者や独裁者との癒着を好み、資源や市場への接続を確保しています。その分、LSPは進出先で民間人による抗議や攻撃の標的になることが多いので、まるで要塞のような社有地を厳めしい傭兵が守っています。
 ディープ宙域におけるLSPは、コンコード(2218)とカアギン(2516)で大規模な造船所を営み、イクナ(2419)を200年前に帝国から購入して独占開発権を得ています。また、ルラミッシュ(2320)のランサナム採掘権の獲得を目指して政治的圧力をかけましたが、これは地元の激しい抵抗に遭っています。
(※旧設定では815-205(3111)も領有していましたが、最新設定ではインステラアームズが持っていることになりました)


【宙域内企業】
アアリスキン・コーポレーション Aariskin Corporation
本社:イルドリサール(2326)
 カーリル政府の認可を受けて活動しているこの企業は、リーヴァーズ・ディープ宙域の20以上の星系に支社や事業所を構え、ダカアル級貨物船を運航させている恒星間商船会社です。

アーバスノット鉱物資源株式会社 Arbuthnot Minerals and Resources Ltd
本社:リンダ(1718)
 カレドン星域で活動している小規模鉱業会社で、豊かなランサナム鉱脈がある惑星リンダを所有しています。

貨物船事業者(カーゴノート)合同組合 Cargonaut Traders and Factors Amalgamated
本社:カレドン(1815)
 カレドン公王国領内で事業を展開している有名な商業組織です。
(※Cargonaut Pressへの献辞みたいな設定でしょうか)

カーリル運輸 Carellines Ltd.
本社:カーリル(2330)
 ディープ宙域全域で事業を展開しているカーリル系商社で、費用を度外視してでも確実に利益を上げることで知られる成長企業です。そのやり口は海賊すれすれですが、ディープ宙域独特の「緩い」政治情勢に助けられています。同社はカーリル政府と強い政治的繋がりがあり、時には自社の利益になるような政策誘導も行います。

カレドン・ベンチャーズ Caledon Ventures, Ltd.
本社:カレドン(1815)
 リーヴァーズ・ディープの全域で積極的に販路を広げている、比較的若い企業です。カレドン属領のダンマーロウ(0921)に交易拠点を置き、そこから他の貿易企業(特にアスラン企業ハテューウィ)が独占していた市場に風穴を開けようとしています。
 同社は探検的な貿易任務のために、いくつものA2型外航貿易商船を運用しています。

ジェリコープ鉱業 Jericorp Mining
 1098年に創業した、家族経営の鉱業・精錬会社です。タシュラカール(1927)には豊かな鉱床の話を聞きつけて、1102年にやってきました。同社はタシュラカールで操業する10社ほどの小規模独立企業の典型例です。

スコティアン・ディープ貿易(SDTC) Scotian Deep Trading Company
本社:スターリング(1415)
 800年代にレジャップール(1218)のジャイヘ貿易で財を成し、1024年の王朝危機の際には当時の経営者ロバート・アームストロング(Robert, Lord Armstrong)がキャンベル卿(後のエドワード公王)に味方したことで、同社はスコティアン・ディープ星域に響き渡る名声と権力を得ることができました(※この記述から、アームストロング卿が領主(ロード)となったのは戦後と思われます)。
 SDTCは公王国外にも多くの交易拠点を持っています。

スターストリーム・エンタープライズ Starstream Enterprises
本社:カレドン(1815)
 カレドン公王国の宇宙船設計・製造企業です。同社はカレドンにおける造船所運営の勅許を得ており、加えて、ディープ各地で見られるダカアル級貨物船を設計したことで知られています。

ダイバースコ Diverseco
本社:サーリル(2128)
 ドレシルサー星域、主にタシュラカール(1927)の砂漠で操業している小さな鉱業会社です。

ダカアル・コーポレーション Dakaar Corporation
本社:ダカアル(1821)
 本社のあるダカアル星系そのものを所有する星域規模企業です。同社は約300年前、ダカアルで豊富なランサナム鉱山を掘り当てた数人の独立鉱夫らによって設立されました。
 傘下企業には、ダカアルのランサナム鉱山の運営や星域内他星系の鉱物資源開発を行う「ダカアル・ミネラルズ」、小規模な商船団を運行して貿易や事業を展開している「ダカアル・トレーディング」、宙域内の(帝国とカーリル領内を除く)Cクラス以上の宇宙港で貨物から宇宙船まであらゆる商取引を仲介する「ダカアル・ブローカーズ」、民間探査企業「ダカアル・サーベイズ」があります。ダカアル星系そのものは社の最大資産であり続けていますが、傘下企業が持つ知名度や利益の総計はそれを遥かに上回ります。
 現在のダカアル社は、業績向上のためには非倫理・不道徳的商法どころか明らかな違法行為も厭わない悪徳企業です。経営理念は「逮捕されそうにないなら、やる価値はある」であり、実際、ドレールサール(2029)では盗品や非合法商品をテロリストや犯罪組織に何の躊躇いもなく売り渡していますし、20年前にカサンドラ(1924)の採掘権を失ったにも関わらず、今でも時折小惑星帯の違法採掘を行っています。
(※ダカアル・ミネラルズ社の悪行については「ラジャンジガル(星系)」の項目を参照のこと)

テクノプレックス・コーポレーション Technoplex Corporation
本社:ウーラカッシュ(3023)
 ウーラカッシュ星域の経済自体を動かす存在であるこの会社は、重工業、エネルギー生産、居住施設建設、生命維持装置など、多様な事業を展開しています。子会社の一つであるERA(Ecoform Research Associated)は、惑星改造の研究と調査を専門とし、時には異星への導入を目的とした合成生物の突然変異誘発研究も行っています。

ニューホライズン New Horizons
本社:ウーラカッシュ(3023)
 帝国の科学研究企業で、研究船(laboratory ship)の「小艦隊」を運用しながら、惑星探査事業や、太古の遺物など科学資料の輸送事業も担っています。

ハテューウィ Khtyuwi'
本社:ロァオ(0237)
 イェホソー氏族の商社です。商圏は緩衝地帯全域(のアスランが開拓した星系)とされていますが、主にエァ星域です。同社はロァホーイ(1224)の香辛料トラオシエーロフロウ(シーズンゴールド)やトーレァ(1226)のリッス香(Risthscent)の販売で知られていますが、他にもガージパジェ(1124)のガラス製品や美術品を取り扱っています。現在、エァ星域の独占市場を巡って新興のカレドン・ベンチャーズ社と激しく争っています。
 なお、イェホソー氏族とイェーリャルイオー氏族の関係から巨大企業トロソイェーロテールの子会社(や手先)と思われていますが、正しくは別会社です。
(※当初はこちらの方がトロソイェーロテールとされていましたが、後に『Book 7: Merchant Prince』で設定競合が起きたため、社名と設定が修整されました)

ファー・スター鉱業機器 Far-Star Mining Equipment
本社:カレドン(1815)
 帝国の巨大企業スターンメタル・ホライズンに子会社化されたこの会社は、それ以降、砂漠世界タシュラカール(1927)での採掘に使われる「14型鉱石クローラー(Mark XIV Orecrawler)」をスターンメタルのために設計・製造しています。

ファースター出版 Farstar Publishing
本社:マールハイム(1230)
 緩衝地帯の様々な星系を詳細に解説した旅行案内で有名な人類系企業です。同社の書籍は、緩衝地帯を越えて帝国やソロマニ連合でも広く販売されています。

フルトン金属 Fulton Metals
本社:フルトン(1524)
 この小さな鉱業・精錬企業は、砂漠星系タシュラカール(1927)を含むドレシルサー星域およびエァ星域で事業を展開しています。

ローレァフテァ・フラヤーワォウヤー Larleaftea Hryawaowya
本社:ロァオ(0237)
 数世紀の歴史があり、アスラン領内でも最高級とされるロァオ造船所を持つ独立系大手造船企業です。その造船所には数々のアスラン氏族や企業が様々な用途(通商、探査、軍事など)の宇宙船を求めて訪れています。同社製造の船には、エイアイケイオール(英雄)級強襲揚陸艦、トレイオトレ(武将)級戦闘指揮艦、ストヤーオーゥ(勇敢な斥候)級索敵艦などがあります。
 その品質の高さからリーヴァーズ・ディープ宙域で有名な企業ですが、他にダーク・ネビュラ、エァリーオシーゥ、イオファハの各宙域に支社を置いています。


【傭兵部隊】
カレドン・ハイランダーズ Caledon Highlanders
本拠地:カレドン(1815)
 リーヴァーズ・ディープ宙域および隣接する帝国やソロマニ領内で活動する、人類の傭兵連隊です。可能な限りこの連隊はまとめて雇われ、最前線の先鋒や、民兵や新兵の訓練を担います。
 この部隊は1098年に公王国海兵隊を退役したウィリアム・フレイザー大佐(Colonel Sir William Fraser)によって結成され、部隊の戦闘能力は常に高く評価されています。彼らはこの10年、宙域内の小規模戦をくぐり抜け、その合間に鉱山開発企業の警備や新規入植地への駐屯、小国の軍事顧問など多様な任務に就いています。
 彼らは柔軟で効率的な組織であり、あらゆる状況で自己完結型の独立部隊として機能するようになっています。数少ない欠点は、財政面の弱さからくる最新式重火器の不足と恒星間輸送艦の欠如で、雇用主は自前で輸送手段を手配しなくてはなりません。
 連隊は3個歩兵大隊、開拓大隊、砲兵連隊、補給部隊で編成されています。開拓大隊は精鋭の偵察部隊で、本隊に先行して道を拓くことを目的としています。ハイランダーズの装備水準はTL13で、歩兵は熱迷彩型戦闘アーマーに磁気ライフル、RAM榴弾などを装備しています。彼らは交戦相手が自分たちよりTLで劣るように契約先を選びますが、幸いにもディープ宙域ではそれが普通です。

テレーイホーイ Teahleikhoi
本拠地:(おそらく)ラウ(0234)
 約150年の歴史を持つ連隊規模の典型的なアスラン傭兵部隊で、その名は「夕闇の兵士達」などの意味を持ちます。TL14で編成された部隊はリーヴァーズ・ディープ宙域各地で作戦に従事しており、正規の氏族戦争から人類相手の「掟なき戦い」まで、1個中隊で十分な小規模戦から連隊全体の連携が問われる大規模戦まで、様々な任務を遂行できます。
 著名な造船企業であるローレァフテァ・フラヤーワォウヤー製の艦艇は部隊の機動力と補給能力を支え、活動に不可欠な存在です。部隊は中隊規模輸送艦9隻、指揮艦3隻、そして大規模作戦用の5000トン大型輸送艦を保有し、特に最後のものは戦闘機中隊や後方支援部隊も運ぶことができます。
 部隊はアスランに限らず様々な政府に雇われていますが、それには歴代(の未婚女性)経営者の出身であるイーフルァ氏族の意向が含まれており、氏族の影響力拡大に貢献しています。
(※イーフルァ氏族は、本拠地がラウ星系であることと、ディープ以外にエァリーオシーゥ宙域とイオファハ宙域に領地を持っていること以外に詳細な設定はありません)

ロングショット Longshot Inc.
本拠地:ソロモン(1538)
 リーヴァーズ・ディープ宙域で活動する、1045年に設立された経験豊富で評判高い傭兵「砲兵」企業です。部隊は12個砲兵中隊から成り、それぞれ反重力橇(グラヴ・スライダー)に乗せた4~6門の砲と通信・指揮車両(および数名の観測員)で編成されています。様々な戦場に対応できるよう、中隊ごとに砲門の種類は異なります。また、帝国軍を退役した熟練兵を数名雇い入れて部隊の質を上げています。
 同社は対アスラン傭兵戦で頻繁に雇われ、テレーイホーイとも幾度となく交戦しています。


【参考文献】
・Ascent to Anekthor (Gamelords)
・Pilots Guide to the Drexilthar Subsector (Gamelords)
・Book 7: Merchant Prince (Game Designers' Workshop)
・Double Adventure 6: Night of Conquest (Game Designers' Workshop)
・Journal of the Travellers' Aid Society #12 (Game Designers' Workshop)
・Travellers' Digest #16, #17 (Digest Group Publications)
・Traveller Chronicle #5, #6, #7 (Sword of the Knight Publications)
・GURPS Traveller: Alien Race Vol.2, 4 (Steve Jackson Games)
・GURPS Traveller: Humaniti (Steve Jackson Games)
・Traveller20: The Traveller's Handbook (QuickLink Interactive)
・Deep and the Dark (Mongoose Publishing)

宙域散歩(25) コーベ星域(クルーシス・マージン宙域)

コーベ星域(クルーシス・マージン宙域I)

 

オカヤ      0121 A6298C9-A                  A 104 Gf M3V        
スワ        0123 D7C5305-9   低人 非水        100 Na M1V        
ウダ        0124 C641238-5   低技 低人 貧困   703 Na F4V        
キルチュ    0129 C431141-6   低人 貧困        400 Na F3V M1V    
オーダテ    0222 A541643-A   非工 貧困        400 Gf M0V        
コーベ      0225 A5536B9-B K 非工 貧困      A 601 Ko M1V M3V    
イイダ      0227 D8C4894-9   非水             300 Na M3V M9V    
ニッコー    0321 E764887-6   富裕             420 Na M2V        
ミト        0322 D8B9410-9   非工 非水        214 Na M0V        
ホンジョー  0324 C527598-8   非工             810 Na G0V M0V    
アキタ      0326 B568779-A   農業 富裕        604 Ko K6V M3V    
オキ        0330 B424699-B   非工             600 Na M1V        
ビワ        0421 D527899-7                    122 Na F9V M0V    
クジ        0423 B566624-8   農業 非工        600 Na K8V        
ドーゴ      0428 E434878-6                    624 Na G8V M1V M3V
キターレ    0521 D310487-9   非工             114 Na M1V        
モリ        0526 C560547-4   砂漠 低技 非工   100 Na G9V        
ドーゼン    0530 C664612-7   農業 非工        300 Na M3V        
マララル    0621 C564773-8   農業 富裕        304 Na K4V        
クレ        0623 A544758-B K 農業             720 Na M3V        
ツ          0627 D536767-7                    302 Os K1V M3V   オーサカ統治
ガーバ・トゥーラ  0722 A696775-A   農業             800 Na F8V M8V    
ムッド・ガシ 0724 C424502-A   非工             904 Na M2V        
ワジール    0725 A310642-B   非工 非農        300 Na A6V G1V    
オーサカ    0727 A867884-C K 高技 富裕 緑地   613 Os M1V        
イセ        0729 B641538-9   非工 非農        100 Sy F5V        
カムチナ    0823 C000461-7   小惑 非農        520 Na F5V M1V M4V
ブーラ      0827 B310487-A   非工             312 Os M2V        
ガリッサ    0829 A6A9844-B   非水             400 Sy M3V        
タナ        0830 C8A7627-9   非工 非水        404 Sy M2V        


 コーベ星域には30の星系があり、総人口は約28億人です。最も人口が多いのはドーゴとオーサカの6億人で、最も高いTLはオーサカの12です。全星系が帝国の傘下にはなく、人類以外の知的種族はほぼ居住していません。

【ライブラリ・データ】
クルーシス・マージン宙域 Crucis Margin sector
 この宙域は帝国領の外、銀河辺境/回転尾(リムワード/トレイリング)方面に位置します。ここへはククリーがある程度の影響力を持っていますが、それ以上に影響を持つ大国は(宙域内に領土を持たない)ハイヴ連邦です。ハイヴの貿易船は宙域内の至る所で見かけられます。なお、ハイヴは何事も裏から操りたがる特性があるため、どの星がどの程度ハイヴの影響下にあるかは見た目にはわかりません。
 この方面へ入植が始まったのは「人類の支配(第二帝国)」期で、この時はまばらに入植地が作られただけでしたが、やがて帝国の内情が悪化していくと人々はより良い住処を求めて難民となって押し寄せてきました。暗黒時代にはいくつかの星が恒星間航行を維持し、中には新たに植民地を抱えることもありましたが、やがてそのほとんどは独自の道を歩んでいきました。-200年頃には隣接するゲイトウェイ宙域からの入植が始まり、特に銀河核(コアワード)方面の星系に大きな影響と強固な結びつきを与えましたが、結局、宙域全体を覆うような統一国家は誕生せず、今もクルーシス・マージン宙域は独立星系と小国が散在したままです。
(※ちなみに、コーベ星域の辺りともなると他所よりはハイヴ船が訪れることは少なく、むしろソロマニ連合籍の貿易船の方が見られるそうです。それは通商や旅行目的だけではなく、対帝国を睨んだ調略や謀略も含まれ……)

大オーサカ Greater Osaka
 かつてシズリン帝国(Syzlin Empire)の一部であったオーサカ(0727)は、778年の流血革命によって独立しました。これを発端に崩壊したシズリン帝国はツ(0627)やブーラ(0827)を放棄したため、オーサカ軍は抵抗されることなくそれらに進出することができました。
 前星間技術だったツ星系はオーサカによる「解放」を歓迎し、進んでその傘下に入りました。ブーラ星系は帝国支配下では単なる前哨基地に過ぎませんでしたが、撤退後には小さな入植地が建設されてオーサカ海軍の補給拠点となりました。やがてそれは人口3万の街にまで発展し、星系自治が営まれるまでになりました。
 こうして誕生した大オーサカは、恒星間国家というよりも小植民地を抱える星系政府と言った方が適切です。しかしながらオーサカの星域内最高の技術基盤と「2星系を支配している」という事実は一定の威信を得ており、外世界との取引において有利に働いています。
 大オーサカは領土拡大に興味を持っていませんが、シズリンによる再併合を阻止するために惑星防衛艦主体の防衛力を保持しています。ジャンプ能力を持たないこの惑星防衛艦を輸送するのはオーサカ特有の「ジャンプ・スピンドル」と呼ばれる商艦で、平時はこのスピンドルに燃料タンクと貨物モジュールを接続して貨物船として運用しながら、戦時には砲塔や戦闘機格納庫のモジュールを施したり、惑星防衛艦を4隻接続して運ぶなど、星系間防衛作戦の機動力を担保する存在です。
(※オーサカは「Overlords」が治めているらしいのですが、今も昔も政治形態は8(官僚制)なので、大阪っぽくするなら「五大老の下に官僚機構がある」ような感じでしょうか)

コーベ企業共和国 Corporate Republic of Kobe
 コーベ(0225)は「企業国家」であり、全人口が「コーベ・コーポレーション(Kobe Corporation)」の従業員でもあります。企業共和国は小さいながらも非常に繁栄しており、クルーシス・マージンとグリマードリフト・リーチの両宙域に商圏を持っています。貿易船は主に近隣星域しか行き来しませんが、コーベの資本は数々の星系の事業に分散投資されています。
 大オーサカとの関係は今のところ良好で、人材交流も盛んであり、毎年のようにモリ(0526)で合同軍事演習も行われています。
 コーベ軍は小規模ではありますがTL12艦艇を購入配備しており、また企業共和国が危機にさらされた際には複数の友好星系から艦船を借用できるよう提携を結んでいます。つまりコーベとの戦争はその背後の様々な勢力を敵に回すことになり、そのこと自体が抑止力になっているのです。
 またコーベは非対称戦を得意とし、通商破壊や軍基地へのテロ攻撃、離間の計など何をしてくるかわからない不気味さがあります。そしてコーベが外交や通商や政治の道具として秘密工作を普段から使っているのではないかという疑惑すら持たれています。
(※「企業共和国(Corporate Republic)」とは、巨大化した企業が政府に成り代わった政体を指す言葉で、共和制であることを意味しません)
(※コーベ星系の政治形態は、旧設定では1(企業統治)でしたがB(非カリスマ独裁制)に変更されたということは、社長職や経営幹部が世襲ないしは特権階級化しているのを表しているのかもしれません)
(※ちなみに「corporation」には株式会社と地方自治体の両方の意味があります)


シズリン共和国 Syzlin Republic
 クルーシス・マージン宙域にあるシズリン共和国は、宙域の中でも新参の、しかしながら広い領土を持つ国です。
 帝国暦-150年に誕生したシズリン帝国は、最盛期の500年頃には24星系を治める大国でした。しかし778年のオーサカの反乱がきっかけとなって帝国は崩壊し、その後は内戦と改革の嵐が吹き荒れました。803年に「共和国」として再興したシズリンは、旧帝国時代の気風と野心はそのままに再拡大に転じ、950年には14星系、現在では17星系を治めるまでに回復しています。
 共和国の首都はシズリン(0831)にあり、そこから傘下星系が統治されています。政治形態はどの星でも民主主義のはずですがその濃淡は星系ごとに異なり、官僚化や形骸化が進んでいる星もあります。そして特徴として、加盟星系は警察権を除いていかなる軍事力の保有は許されず、それらはシズリン大統領の直接管理下に置かれることです。
 外交政策は尊大かつ拡大主義的です。貿易船や軍艦は「自由航行権」を主張し、力でそれを押し付けようとします。共和国から派遣された「顧問団」が近隣の様々な独立世界に現れては、シズリンに靡きそうな政府(や反体制派)に軍事・経済・技術のあらゆる面で援助を行うことも有名です。そして、それらが不調に終われば軍事侵攻も辞しません。

グリマードリフト連邦 Glimmerdrift Federation
 グリマードリフト宙域(とクルーシス・マージン宙域の極一部)に広がるグリマードリフト連邦は、1090年に旧グリマードリフト交易組合(GTC)を核にして周辺星系が加盟して誕生した恒星間国家です。
 政治組織は旧GTCを継承し、加盟世界の自治権と経済連携を重んじた上で相互防衛活動による結束を高めています。領内には人類以外に、数世代を経て地元文化に溶け込んだヴァルグルや様々な種族が住んでいます。また、ククリーの〈二千世界〉とは以前から友好関係にあります。
 連邦船籍の商船は宙域を越えて〈第三帝国〉領内まで出向いていますが、加盟星系外に企業が進出することはまずありません。逆に、外国企業は加盟星系では事実上締め出されています。
(※GTC自体は公式設定ですが、連邦に関する部分は非公式設定の帳尻を合わせた独自設定です)

イセ Ise 0729 B641538-9 非工 非農 Sy
 シズリン海軍の遊撃艦隊(Ranger Fleet)はこの世界を拠点とし、最前線であるこの星の防衛任務と同時にトレイリング方面国境内外にも睨みを効かせています。
(※UWP上では海軍基地は存在しませんが、Bクラス軌道宇宙港でどうにかしているのでしょうか)

アキタ Akita 0326 B568779-A 農業 富裕 Ko
 100年ほど前はこの星の全ては(コーベ社の意を汲んだ)民主議会が統治していました。しかしその後の旺盛な人口増加によって、今では(あくまで星系内では)コーベ社に対抗しうるだけの力をつけた地元有力企業らがそれぞれ「企業城下町」をつくり、独自の「社則」を制定している有様です。
(※政治形態が4(間接民主制)から7(小国分裂)に変更されましたし、人口がコーベの10倍になってしまったのでこんな独自設定をこしらえてみました)

クレ Kure 0623 A544758-B K 農業 Na
 ツァボ・リーチ(Tsavo Reach)の端に位置するクレは、人口7000万の有力星系です。統治を担う評議会は企業経営者や行政各局の長で構成され、全ての問題において市民投票の結果を尊重することが法律で義務付けられてはいますが、立法と行政の二権を握っています。
 経済立国を標榜するクレは軽武装路線を採り、駆逐艦程度の艦艇しかない海軍は主に地場航路を守るためにあります。商業は星系収入の大きな柱であり、宇宙船の建造や、ツァボ・リーチを抜けてグリマードリフト・リーチ宙域方面に向かう貨物船の入港料などで利益を得ています。
 クレは定期航路のあるコーベと友好関係にある一方、長年の貿易紛争の相手である大オーサカとはそうではありません。

ツァボ・リーチ Tsavo Reach
 クルーシス・マージン宙域の4星域・29星系に跨る星団の名称です。星図上ではちょうどシズリン共和国や大オーサカの外側を迂回するかのように並んでいます。

カーヒリ Karhyri
母星:スフィリ(クルーシス・マージン宙域 0439)
 カーヒリは平均身長2メートル弱で直立二足歩行をする温血の知的種族で、人類からは「嘴のある爬虫類」のように見えます。彼らには男性と女性に加えて「護性」と呼ぶべき第三の中性が存在します。護性のカーヒリには子育てや子供を守る役割がありますが、生殖にも関わっているという説もあります。また、全てのカーヒリは性とは別に遺伝的に定められたと思われる3つの社会層(翼、尾、一般)のどれかに属し、それぞれ微妙に体格や精神性に差異があります。
 カーヒリは-2500年頃に亜光速宇宙船でカルド(同 0440)に進出した際、遥か昔に遭難したハイヴの宇宙船を発見しました。その50年後には彼らは拙いながらもジャンプ宇宙船を完成させ、近隣5星系への植民も果たしました。そして-2000年代には、難破船の乗組員の遺骨を故郷に帰すために当時の技術では途方もない旅に赴きました。しかしこれは、彼らにとって当然の行いなのです。
 なぜなら、カーヒリの社会は名誉をあらゆる物事の規範に据えています。一例として、彼らには商取引規制の概念がありませんが、これは誠実さや正しさによって信頼が担保されているからです。そして同時に彼らは他種族であっても自分たちと同じ高潔さを求め、監視を怠りません。
 話を戻して、とうとうカーヒリはハイヴ領まで遺骨を届けられたのですが、カーヒリにとっては崇高な行いであっても、ハイヴにしてみれば忘れ去られた大昔の行方不明者の死亡が確認されたに過ぎませんでした。この「冷たい対応」に加えて、無駄足となった帰路でカーヒリ乗組員に殉職者が出たこともあって、カーヒリは今もハイヴを軽蔑し、全く信用していません。たとえ彼らの基準ではあっても、名誉を解さない「獣に等しい」ハイヴは対等の知的種族とは見なせないのです。また、隣接する人類国家シズリン共和国とは緊張関係にあるため、シズリンを挟んで反対側にあり共通の敵を持つ大オーサカと協調しています。
 種族としてのカーヒリは「名誉への奉仕者」と呼ばれる司祭と行政官を併せ持ったような社会階層によって統治され、保守的で厳格な変化の少ない社会を構築し、現状に満足して領土拡大にも興味はないのですが、個人や小集団が気ままに宇宙を放浪していることはよくあります。宙域内で最もよく見られるのは300トン級の小型船です。


余談:コーベ星域になぜ和名星系が多いのかについては、正しくは元ネタを書いたJudges Guildの人に聞くしかないのですが、公式設定から想像すると、地球連合か第二帝国の時代に探査を行った際に日系ソロマニ人の担当者が深い意味もなく命名していった……あたりが妥当ではないかと思います。初期入植者が日系人ばかりだったというのは、入植者の多くが「第二帝国からの難民」という公式設定と照らし合わせると無理がありますし。とはいえ「どことなく和風文化がある(靴を脱いで家に入るとか、ライスを箸で食べるとか、名字が名前の先に来るとか、訛りが関西弁とか……)」とするのが、わざわざこの星域で遊ぶ理由の一つにはなろうかと思います。ここは〈帝国〉の外ですし、公式設定もこの先おそらく増えないでしょうから、好き勝手にしても大丈夫でしょう(実際、今回もブーラやアキタの設定で拡大解釈をしていますし)。
 また、オーサカ視点で星図に貿易航路を引いてみると色々と見えてくるものがあります。TL12のオーサカが持ってておかしくないのはジャンプ-3なので、次の寄港星はワジール、モリ、ドーゴのどれか(星域外はとりあえず無視)。モリ経由でコーベ方面に向かう航路よりも、ワジールからガーバ・トゥーラに抜ける(クレとは仲が悪い設定があるので、行きたければワジールで乗り換え)航路の方が栄えている感じなので、コーベとの関係は設定ほどには仲良くはない(そこそこ程度?)でしょうし、ワジールは物流の拠点として栄えていそうです(環境的には輸入依存社会に見えるので、何か有力資源がある?)。リム方面ではイセ港が使えないオーサカの船はドーゴをハブとして様々な星に行くことになりますが、そのドーゴはEクラス宇宙港ですから明らかにガス惑星で燃料補給だけして去っています。ということはドーゴには魅力的な貿易産品が本当になさそうです。その割に人口は星域屈指の多さなので何か理由が考えられそう……。
 一方、コーベから見るとクジ経由クレ行きの航路は太そうだからクジとも友好的だろうとか、いくら重商主義のグリーマードリフト連邦でもコーベ~オーダテ間の定期航路ぐらいはありそうとか……こうやって設定を詰めていくのは大変ですが(好きな人には)楽しい作業ですので、空想の宇宙を旅してみるのはいかがでしょうか。繰り返しになりますが、おそらく公式設定は今後増えないでしょうから何をやっても安心です(笑)。


【参考文献】
・Gateway to Destiny(Quicklink Interactive)
・Traveller Wiki

宇宙港 ~未知への玄関口~ 第4集:宇宙港での遭遇


「開拓者は未開の荒野で生計を立て、勇敢な貿易商人は辺境で商売する。とは言うものの、宇宙港は良くも悪くも人と人が触れ合う場所であることに変わりはない。6週間、誰とも会わなかった事がある。その時、ある男が錆びついたボロ貨物船でやってきて燃料を買い、何かの動物の毛皮と怪しげな異星の文献を売ろうとし、そして足を引きずりながら帰っていった。そいつの隣りにいた奴は少し風変わりだった――何と言うか、普通だったんだ」
――辺境港の二等整備士、ジム・ドゥガン


 「宇宙港への旅」は、見知らぬ人々との出会い、異星の品々の売買、そして新たな冒険に巻き込まれる機会でもあります。宇宙港の利用者は、普段なら決して接点がないような平凡な日常の枠を超えた特別な人々です。もちろん、ほとんどの人はただの利用客に過ぎませんが、中には常人が経験できないようなことを見たり聞いたりしてきた人たちもいます。貴族、官僚、芸能人、写真家、帰還兵、新婚夫婦、逃亡者、諜報員…等々。彼らには語られるべき物語があり、明かされるべき秘密があり、実現すべき夢があります。そういった人々と同じ時を過ごせるのが宇宙港の特性です。
 更に、宇宙港での日常には大小様々な事件がつきものです。多くの場合、港の内部では地元よりも多くの物事が起きていますし、新開発の技術産品、知られざる生物、神秘的な宝物といった物が宇宙港に流れ込んできています。港内では陰謀が練られ、犯罪が捜査され、探検が企図され、個人では到底解明しきれないほどです。実際、宇宙港内をうろうろしていれば面白いことが起こるのは時間の問題です。もちろん「面白い」にはかなりの幅があって、そのどれもが安全というわけでもありません。しかし、冒険をしたくないのなら、なぜ「旅人(トラベラー)」になったのですか?


■地元対策
 「地元対策」というと、宇宙港と地元政府との関係のみを指すと思われがちですが、そうではありません。港長は地元住民の懸念にも向き合わなくてはなりません。多くの場合は騒音や公害への苦情に耳を傾け、地元企業や労働組合の代表との折衝を行います。宇宙港があること自体は帝国にとっても星系経済にとっても良いことですが、(真実でも妄想でも)不満を持つ人は必ずいます。当然ながら、連絡室は港長や広報課、その他の適切な部署と連携して、こうした懸念の多くを処理します。このような問題はしばしば頭痛の種となり、多くの事務処理を必要としますが、一般的に宇宙港運営を脅かすことはありません。とはいえ、港長を生き地獄に落とす個人や集団はいくらでもいて、こういった連中の多くは地元住民からも支持されていませんが、それでも彼らやその主張を簡単に無視するわけにもいきません。宇宙港は必然的に誰かには迷惑をかける存在ですが、迷惑を受けた人が逆に港や他人の迷惑にならないようにするのが港長と連絡室の仕事なのです。

 広大な敷地に多くの人々が行き交い、様々な物質が保管されている地上港が、色々な意味で汚染源となることは否めません。人にも環境にも安全な港にするためにあらゆる努力が払われていますが、間違える可能性は常にあります。野生動物の生息地が破壊されたり、貴重な水源が枯れたり、飛行生物が宇宙船の離着陸で悪影響を受けたりすることもあります。他にも燃料や危険物質の流出で、周辺の環境はおろか住民に危険をもたらす可能性もあります。
 そのため、宇宙港はこれら潜在的脅威を危惧する団体に責められることがあります。そういった団体の中には、「汎銀河生命友愛協会(Pan-Galactic Friends of Life)」のような真っ当で、帝国でもかなりの影響力を持つものから、理解や解決が不可能な主張を並べ立てる先鋭過激派まであり、それらを的確に識別して丁重に扱い、最善の利益に繋げなくてはなりません。

 ほとんどの港長は地元の経済や雇用を最大化しようとしていますが、経済が不安定な世界では宇宙港が雇用を奪っていると見られることもありえます。例えそれが真実ではなくとも、港務局はその懸念を払拭するためにできる限りのことをします。広報課や連絡室が公開講座や教育啓発を行って、宇宙港がどのようにして地元世界を星間経済に結び付けているかを広めることで、「地元に有害なもの」と思われていた宇宙港を少しずつでも「おらが星のもの」に変えていくのです。
 そして、宇宙港は義務教育時の職場見学(や修学旅行)でよく選ばれる場所であり(※帝国宇宙港は基本的にTL12以上で運用されていますから、特に低TL世界の子供たちにとっては帝国市民として「標準的星間文明」に触れられる良い機会になります)、港務局はその幼少期の体験を大切にしています。少なくとも、港務局職員の多くが自己の職業人生の原点として挙げています。
 このような広報の苦労は必ずしも報われるとは限りませんが、港長の心労を少しは減らしているのは間違いないでしょう。

 上記のように、プレイヤーキャラクターが全員、港長を含めた宇宙港幹部となるシナリオ(キャンペーン)は興味深いものとなります。幹部には大きな責任と権限があり、これを利用しない手はありません。確かにその仕事のほとんど退屈なものですが、そういったものを再現するのではなく、港長を「一地方の領主」と捉えるとシナリオの焦点が見えてきます。災害の防止や初期対応、政府高官の視察、地元問題への対処は、頻発こそしないものの物語を盛り上げる要素となりえます。
 そして、平凡な日常も一工夫があれば波乱に満ちたものとなります。宇宙船の定時運行は整備員が職場放棄してしまえば困難になりますし、儀礼にうるさいアスラン使節団を満足させながら悪徳記者に対処するのは腕前を試される局面です。いくら権限があってもそれは万能ではなく、能力と物資と職責の限界から来る二律背反に苦しむこともあるでしょう。宇宙港の日々は常に刺激に満ちているわけでがありませんが、面白くなる時は実に面白くなるのです。

■港内従業員
 販売店や各種窓口、宿泊施設に勤務する従業員は、己がよく接する客層に応じた様々な噂や情報を見聞きしていることが多いです。特に「大人の遊び場」で働く人々は格好の情報源となりえます(港務局はあからさまな歓楽街を港内にはなかなか建設させませんが)。

■犯罪への誘惑
 違法の物品をいかにして安全・確実に税関を通過させるか、犯罪者や闇の商売人たちは常に頭を悩ませています。宇宙港にいる旅客や失業した船員に「うまい話」を持ちかけるだけでなく、旅行者本人すら気付かぬうちに密輸の片棒を担がせようともします。
 また、宇宙港で旅客は多額の金品を持ち歩きがちですし、普段は容易に近付けない支配階層や富裕層も出入りするので、スリや窃盗、時には(極めて異例ですが)暗殺すら行われる場所でもあります。
 逆に、警察が「おとり捜査」を仕掛ける場合もあります。もし港で倉庫への侵入など「簡単で妙に美味い話」を耳にしたのなら、それは覆面捜査員から流された罠かもしれません。そして捕まれば、長期の服役を強いられるか、内通者として捜査機関に情報を提供する危険な役目を引き受けるかのどちらかです。

■ロボット
 よほど低TLで運用されていない限り、宇宙港では動く歩道や小型の乗り物で人や物の移動が行われています。よくあるのは2~6人乗りの電動車両「ポートサイダー(Portsider)」で、後部コンテナに荷物を積んで運ぶ「ポートサイダー・ミュール(Portsider Mule)」や、それら客車・貨車を複数連結して牽引する「ロングサイダー(Longsider)」もあります。基本的にこれらは特定経路を走行する自動運転か、職員による手動運転です。基本的に密閉空間である港内施設では反重力化する利点が乏しいため、安価な車輪型が一般的です(もちろん構内の造りによっては反重力化した方が良い場合もありますが、その際は必ず規定された航路を走行します)。
 また、旅客の手荷物を運びながら付いていくことに特化した「キャリーボット(Carrybot)」もあり、基本的には車輪型ですが、大量の荷物を空中で運べるように大型化・反重力化されたものを運用している宇宙港もあります。

 他に、警備、清掃、販売、医療などの分野でも(TL次第で)ロボットが活用されていることがあるでしょう。順調に動いている時は非常に頼もしい存在ですが、故障や誤動作、そして悪意を持って意図的に操られた時は――

■はぐれ人
 巨大港はもはや一つの都市ですから、当然のように行き先を見失う人も出てきます。迷子を保護すれば御礼や接点が得られるかもしれませんし、待ち合わせた相手がいつまでたっても来ないかもしれません。これぐらいなら笑い事で済ませられるかもしれませんが、では、警備責任者が勤務中に突然失踪したのなら……?

■騒乱
 地元惑星で内戦が起きて難民が宇宙港に押し寄せる、テロ組織が警備の隙を突いて宇宙港を占拠する、はたまた貧富の差への怒りで「富の象徴」である宇宙港を目指して暴徒となった住民が――。このように、いくら高度な警備体制を誇る宇宙港でも、攻撃に晒されることは(極稀とはいえ)ありえます。攻撃に至らなくても、宇宙港職員の舌禍で地元住民を怒らせてしまい、宇宙港に通じる幹線道路を抗議で封鎖されるようなことも起こり得ます。
 他に、地元政府が転覆して「外世界人の排除」に傾き、宇宙港および帝国との関係が一気に悪化することもありますし、宇宙港が対立する2つの種族(国家)の唯一の中立地帯であることもあるでしょう。「爆弾を仕掛けた」という情報が一つ寄せられただけでも、真偽を抜きにして様々な部署が動いて、無数の人々に影響が及ぶのは想像に難くありません。

■自然災害
 宇宙港で「遭遇」するのは人だけではありません。地震、洪水、酸性雨、地滑り、竜巻、熱波、豪雪、そして恒星フレアに隕石……。宇宙には様々な自然環境があり、人の脅威になるものも様々です(地盤沈下の原因が地下を掘り進む巨大生物のせいだとしたら…?)。また、爆発事故や飛散破片衝突といった人為的な災害も起こり得ます。ただし、まともな宇宙港は何重にも冗長性と安全性を確保しているので、何千人もの犠牲者が出たり、宇宙港の存続が脅かされるようなことはまずありませんし、そもそも物語として意外と面白みがないものです。天災、人災を問わず、災害を物語に利用するための要点は、キャラクター本人だけでなく、そのキャラクターが大切にしているもの(物品や知己、愛着ある地域そのもの)を危険に晒すことです。そうでなければほとんど機能しません。
 一方で、敵対し合う集団同士が悪天候で宇宙港に足止めされるなど、部外者や宇宙港職員の立場でも気まぐれな天候に振り回される物語の作り方はあります。他に、深刻な渋滞に巻き込まれたり、星系独自の祝日で思わぬ事態(店舗が全て休業するだけでも影響は甚大です)になるのも、一種の災害と言えるでしょう。

■軌道港
 宇宙港には地上港と軌道港の2種類がありますが、どちらも起こりうる出来事に大差はありません。しかし、プレイヤーに飽きられないためにも軌道港ならではの要素を知っておくのは、レフリーにとって損はありません。
 最もわかりやすい違いは、軌道港では巨大な宇宙船と出会えることです。大型船は基本的に非流線型のため、惑星地表への着陸が原則として不可能です。修理補修や補給のためには軌道港に寄るしかありません。ということは巨大な宇宙船を見られるだけでなく、その乗組員とも出会える可能性があるのです。彼らは零細の自由貿易商人とは違って「選ばれし者」であることを自認しており、大規模な貨物にも日常的に接しています。また、規模が大きくなることで、密航や密輸の隙も大きくなりがちです。
 軍艦もその多くが大型船の範疇に含まれるので、その乗組員と接触するには軌道港や軌道上基地に出向かなくてはなりません。弩級戦艦のような特別な艦は特別な港を母港としていますが、「異例の事態」がいくらでも起こりうるのが帝国というものなので、母港ではない港に居るだけで冒険の発端や現況を示す要素として使えます。
 そして軌道港の管理された脆い環境も、冒険として使えます。地上港で起こりうる災害は軌道港ではより破滅的なものとなりますし(火災一つでも深刻な事態になりえます)、悪人は環境をも人質に取ることができます。未知の生命体が大型船から軌道港に逃げ込むことだって――

■監査室が対処するもの
 宇宙港を舞台にした冒険をするなら、最もやりやすいのがプレイヤーを全員「港務局監査室」の所属にしてしまうものです。監査官と班員には独立した大きな権限が与えられていますし、任務に必要な装備品も支給されます。何よりも、導入が命令型になるのでせっかく用意したシナリオを拒否される恐れがないのが利点です。
 監査室の本来の仕事は諜報活動ではなく、宇宙港業務が滞りなく行われているか査閲することです。備品の数に間違いはないか、エアロックは確実に作動するか、食堂の衛生管理は適切か、職員の服務姿勢に問題はないか等々、宇宙港内部の不備不正に目を光らせ、腐敗する前に事前に摘み取るのが役目です。これらは確かに冒険にはなりそうもありませんが、たった一つの工作機械の紛失が大公暗殺計画の発端かもしれないのです。
 監査官のもう一つの仕事が、宇宙港事故の鑑識調査です。火災、倒壊、衝突など、宇宙港内で重大な事故が起きた際には監査官が現場に向かい、何が起きたのか、なぜ起きたのか、どうすれば再発を防げるのかを調べます。えてして関係者は責任を他人に押し付け合いますし、法律や雇用問題といった様々なしがらみも絡んできます。そんな中で監査官は科学的に客観的に、事故の真相を突き止めていくのです。

 話はずれますが、企業の「工作員」も宇宙港を活動の場としています。有名なところでは、巨大企業テュケラ運輸の警備部門である「ヴィミーン(Vemene)」が挙げられます。ヴィミーンは公的には海賊行為や乗っ取り、貨物の盗難や破壊工作を防ぐのが任務とされていますが、実際には合法・非合法を問わない手段で競合企業を潰そうとしているとの悪評は常にあります。近年ではオベルリンズ運輸との暗闘が囁かれていますが、規模では遥かに格下が相手であっても彼らに容赦はないのです。
 巨大企業に限らず企業は本音では独占を好み、他社を叩こうと虎視眈々と狙っています。そのため宇宙港では(極力)秘密裏に陰謀や交戦が繰り広げられる可能性が高いのです。レフリーはこのような紛争の存在と、それがプレイヤーキャラクターがいま居る宇宙港に波及する可能性を頭の隅に置いておく必要はあります。そして「通商戦争」が宇宙港の利益に反するのであれば、監査室はそれが燃え広がる前に鎮火させないとならないのです。
(※通商戦争では交戦社以外を巻き添えにするのは禁じ手とされていますが、工作員の不注意や失敗、活動の余波などで「貰い火」を食らう可能性はあります。そのせいで宇宙港の評判が落ちては港務局は堪りません)

■宇宙港を舞台にした「挑戦」
 海軍は時折、基地の保安体制を確かめるために「潜入者(スニーカー)」を雇い入れることがあります。帝国最難関の警備網を相手に腕試しをする潜入者は、宇宙船で封鎖線を破り防衛線すり抜け、基地の中枢に迫れば迫るほど報酬が増していきます。もちろん潜入者であることを示す特殊な信号は海軍から発給されていますが、身元を示す前に撃墜される恐れはあります。
(※同様のことを港務局が宇宙港で行っていても不思議ではないと思います)

 近年、帝国宇宙港では「ポートクール(Portkour)」という地下運動競技が流行しています。参加者は乗り物等の移動手段を使わずに、主催者が競技開始直前に指定してくる目的地まで一着を目指して走ります。どのような「道」を進むかは参加者の自由と自己責任であり、即興で待合室や危険物倉庫や屋上を飛び跳ね、あらゆる「障害」に構わず駆け抜けていくのです。もちろん港務局がこんな迷惑な競技を認める訳もなく、捕まれば厳しい罰を受けることとなります。
 もし貴方がこの開催情報を知ったら、誰かの勝ちに賭けますか、港務局に通報しますか、それとも自ら参加者となって賞金を掴もうとしますか…?


【参考文献】
・GURPS Traveller: Starports (Steve Jackson Games)
・Starports (Mongoose Publishing)
・Referees Briefing 3: Going Portside (Mongoose Publishing)